フィールドガイド 地学雑誌 107 (3) 444-457, 1998

ハワイ島の火山見学案内

早川由紀夫

1.旅行準備
2.空からの観察
3.ハワイ島生活術
4.生きている火山キラウエア
5.現在進行中のプウオオ-クパイアナハ噴火
6.サウスポイントの雄大な自然
7.ハワイ島でもっとも古い火山コハラ
8.標高4000mの世界
9.日本への帰国
10.ハワイの火山をもっとよく知るには
引用文献

 ハワイ島はハワイ諸島最大の島で,群馬県と埼玉県を合わせたくらいの面積をもつ.活発に噴火を続けるキラウエアのほか,歴史時代に噴火記録があるマウナロアとフアラライ,4206mの山頂まで車で行くことができるマウナケア,山頂近くまで深い谷に刻み込まれたコハラ,の5火山からなる火山島である.ハワイ・ホットスポットの火山活動を観察するのに最適の島だ.

 オアフ島のホノルルから直行便が,東海岸のヒロと西海岸のコナへ毎日数便飛んでいる.キラウエアに近いヒロへ飛ぶのがいいだろう.アメリカのレンタカーは一週間単位で借りると割安だから,ハワイ島に7泊する旅行計画を立てるとよい.40ドルの乗り捨て料金を負担すれば,ヒロ空港で借りた車をコナ空港に返すこともできる.

 実際,私は11人の仲間といっしょに1997年12月24日にヒロ空港に降り立ち,南回りで移動して,12月31日早朝コナ空港から帰国の途についた.この火山見学案内は,そのときの体験に,過去3回の私自身のハワイ島旅行経験をつけ加えて執筆したものである.出発当日に旅行代理店の倒産を知らされるという困難を克服して,9日間の旅行を実り多く,しかも楽しく終えることができたのは,旅行に参加した群馬大学教育学部学生と卒業生みなさんの力による.

1.旅行準備

 渡航書類 帰国日まで有効のパスポートがあれば,3ヶ月以内の滞在にビザは必要ない.

 航空券の予約 繁忙期を外して格安チケットを買えば,ホノルルまでの往復は7万円前後.ハワイ島までの追加料金は8000円くらいだ.

 レンタカーの予約 アメリカ系レンタカー会社の日本支社に電話を入れて予約したのち,クーポンを旅行代理店から購入して行くとよい.車両保険(CDW)が含まれているクーポンがいい.このままだと対人保険が法定10万ドルしか掛けられていないから,現地カウンターで100万ドルまたは200万ドルの対人・対物保険(LIS)を購入すると安心だ.海外旅行障害保険に加入する人は,特約の自動車運転者賠償責任保険をつけていってもよい.同乗者全員が海外旅行傷害保険に加入していれば,搭乗者保険(PAI)を現地で勧められても買う必要はない.国際運転免許証・日本の運転免許証・クレジットカードが必要.25歳未満には車を貸さない会社もあるので,事前に確認したほうがいい.

 四輪駆動車などの特別車両を借りない限り,契約書には "Hazardous conditions prohibit driving on Saddle Road" と書かれるだろう.サドルロードは,マウナケアとマウナロアの間を抜ける道.この条件を承諾してサインしないと車を借りることができない.

 宿泊予約 ハワイ島は有名観光地だから,ホテル・コンドミニアム・B&B(朝食付き民宿)・モーテルなど,バラエティーに富んだ施設が数多くある.値段はそれほど高いわけではない.ウェブを使って予約すると簡単だ.よく捜せば,一流ホテルに格安料金で泊まることもできる.大きなホテルやコンドミニアムを希望するなら,「海外ホテル料金表」などの冊子をみて日本の代理店を通して予約を入れていくのもよい.

 なお現地では,繁忙期でも「空室あり」の札を見るから,少人数なら予約なしでもその日のベッドがみつけられないことはないだろう.

 携行品 帽子・サングラス・日焼け止めクリームはぜひ持参したい.突然のシャワーに備えて雨具も必要.双眼鏡が役に立つ.目標となるランドマークがあまりないので,高度計つき腕時計と等高線入り地図があると,自分がいる位置を知りたいときに便利だ.

2.空からの観察

 ホノルルからヒロへの定期航空路 ハワイ諸島を結ぶ定期旅客機の座席は自由席だから,早めに搭乗口に並んで窓際の席を確保したい.右側に座ると,ラナイ島とカホオラエ島の上を飛んだあと,遠くにマウナケアとマウナロアが見えてくる.冬だと,両山の山頂は雪をかぶっているかもしれない.ハワイ島に接近すると,たくさんの必従谷に刻まれたマウナケアの山腹を隈なく被うジャングルが真下に見え,熱帯の島に来たことが実感できる.

 左側に座ると,ホノルル空港を飛び立って旋回を終えてすぐ,ダイヤモンドヘッドとハナウマベイが見える.どちらもタフリングだ.まもなく,平坦なモロカイ島の上空を通過する.赤色土に覆われている.リゾートホテルが林立するカアナパリと,捕鯨で栄えた古い港町ラハイナが見えたらマウイ島だ.カフルイの低地を過ぎると,3055mの山頂に白い天文台ドーム群が建築されているハレアカラが目の前に現れる.山頂から南西へ伸びる尾根上にたくさんの火口が並んでいる.ハワイの盾状火山の特徴であるリフトゾーンだ.ハレアカラの大きな火口の中には整った形のスコリア丘がいくつも見える.キパフル渓谷を太平洋に向かって流れ下る黒い溶岩流が眼下に迫ったあと,飛行機は高度を下げてヒロ空港に着陸する.

 セスナとヘリコプター 観光目的でセスナやヘリコプターを運行している会社が,ヒロ空港の敷地内に数社ある.現在噴火中のプウオオ(Puu Oo)の上を飛んだあと,溶岩トンネルに沿って太平洋まで下り,海への溶岩流入口を見るコースが一般的である.海岸では白い水蒸気柱しか見えないかもしれないが,プウオオ火口内と複数の天窓(陥没した溶岩トンネルの天井)で赤熱溶岩と対面できるだろう.セスナは70ドル.ヘリコプターは140ドルが目安だ.キラウエア・カルデラの上を飛ぶには,特別の許可が必要だという.

 キラウエア・カルデラ北側のゴルフ場の一角からもヘリコプターに乗ることができる.ただし,ここは緊急時のレスキューを本目的にしていて,時間に余裕があるときだけ観光客を乗せているらしい.ここから飛び立てば,プウオオだけでなくキラウエア・カルデラも空から観察することができるから一石二鳥だ.

3.ハワイ島生活術

 ヒロのショッピング事情 Hiloのダウンタウン商店街は閑散としている.買い物は,11号線を6km南下したところにある巨大ショッピングセンターでするとよい.食料品店・日用雑貨店・ファーストフード店などがある.発泡スチロール製の大型クーラーボックスをぜひ購入したい.ひとつ7ドルだ.スーパーで買った飲み物や生鮮食料品をこの中に詰め込めば,車のトランクがハワイの強い日差しを受けても安心だ.氷は,島内どこでもガソリンスタンドの売店で手に入れることができる.

 ガスやガソリンは飛行機に持ち込むことができない.私たちは,ヒロでストーブ用の液化ガスカートリッジを買うことにしていた.卓上ガスコンロ用のカートリッジとコールマン社製の(日本ではまったく見ないタイプの)液化ガスカートリッジはあったが,私たちが持参したストーブに適合するカートリッジはどうしてもみつけることができなかった.ホワイトガソリンならどこでも売っているので,ハワイ島でキャンプするならガソリンストーブを日本から持参するのがベストだ.

 キャンプ場 ハワイ島のキャンプ場は国(national)・州(state)・郡(county)のいずれかによって管理されている.

 国立のキャンプ場は,キラウエア・カルデラのすぐそばの11号線沿いにあるナマカニパイオ(Namakani Paio)キャンプ場ただひとつである.最近までハワイ火山国立公園内にはキャンプ場がもう二つあった.海岸にあったカモアモア(Kamoamoa)キャンプ場はプウオオからの溶岩流によって1992年に埋まって消滅した.中腹にあるキプカネネ(Kipuka Nene)キャンプ場は,ハワイ諸島固有の鳥であるネネの保護地区となり,現在使用できない.

 ナマカニパイオ・キャンプ場は,予約不要でしかも無料だから利用価値が高い.ユーカリの森のいい匂いに囲まれて,芝生の上に気持ちよくテントを張ることができる.ただしここは標高1200mだから朝の冷え込みがきびしい.雨も降りやすい.トイレは水洗できれいだが,水は茶色く濁って飲用に向かない.シャワーはない.ピクニックテーブルとかまどがあるので,食料と薪をビレッジ(Volcano Village)のガソリンスタンドで調達すればキャンプの夜を楽しく過ごすことができる.繁忙期でもテントが張れないほど混むことはない,とレンジャーはいう.

 同じ敷地内に約10棟のキャビンがある.これの宿泊はボルケーノ・ハウス・ホテルに申し込む.キャビンに泊まるとシャワーが使えるらしい.

 州立のキャンプ場は,カロパ(Kalopa)州立公園内と,マッケンジー(MacKenzie)州立公園内の二つだ.事前に使用許可を申請することが必要である.ハワイ島随一の美しいサンゴ礁ビーチであるハプナビーチ(Hapuna Beach)州立公園にはキャビンがある.4人用で一泊20ドル.サドルロードの標高1700m地点にあるマウナケア州立公園のキャビンは,4000mに挑戦する人にとって高地順応をかねたよいベースキャンプになるだろう.4人用が一泊45ドル.寒さ対策を万全にしておきたい.申込先は,

Division of State Parks,
75 Aupuni Street, #204
Hilo, Hawaii 96721, USA

 郡立のキャンプ場は島内13のビーチパークにある.事前に使用許可を申請することが必要で,ひとり一泊1ドル.申込先は,

County of Hawaii,
Department of Parks and Recreation,
25 Aupuni Street,
Hilo, Hawaii 96720, USA

 キラウエア見学の拠点 ヒロのショッピングセンターで80ドルほどを投資してテントと寝袋を手に入れ,ナマカニパイオ・キャンプ場に泊まるのがもっとも経済的だ.キラウエア・カルデラから11号線を40分ほど南下した海岸にも,郡立のプナルウ・ビーチパーク(Punaluu Beach Park)キャンプ場がある.しかし,ここは管理状態が悪く治安もよくないので勧められない.ボルケーノ・ハウス・ホテルに泊まってもいいが,ビレッジまで2km下れば,おしゃれなB&Bがたくさんある.また,ヒロのホテルに泊まって毎日往復してもさほど苦にならないだろう.


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