8.標高4000mの世界

 マウナケア 「白い山」という意味のMauna Keaは,ハワイ諸島の最高峰だ.4206mの山頂まで車で行くことができる.サドルロードは全線舗装してある.そこからの枝道であるマウナケア道路も,標高2800-3500mの区間を除いて広く舗装されている.未舗装区間の道路脇に,氷河の削痕を表面にもつ溶岩があるので,車を下りて観察しよう.山頂には,日本の天文台「すばる」がまもなくできあがる.

 マウナケアにはたくさんのスコリア丘がある.山頂からみてどの方向にもあるので,この火山にはリフトゾーンを認めにくい.3000mより上には,鮮やかな赤い色をしたスコリア丘が多い.植被がないので表層にあったはずの黒いスコリアが強風で吹き払われてしまい,内部にあった高温酸化した赤いスコリアが露出している.

 海岸の6割しか酸素がないマウナケア山頂に行こうと決心したら,前日から体調づくりにはいろう.シュノーケルで海に潜ることは避けるべきである.当日はアルコールを控えたほうがいい.食事も少なめにする.2800mのオニヅカ・ビジターセンターで,ハワイ諸島固有の植物シルバーソード(Silversword)を観察しながらゆっくり休憩して高地順応するとよい.

 山頂に1-2時間滞在するだけなら,ひどい高山病に悩まされることはないだろう.ただし注意力が散漫になり,思考力も低下する.自分を過信してはいけない.物の置き忘れに注意しよう.

 通常のレンタカーの場合,サドルロードの通行は契約外となる.つまりすべての保険の適用が除外される.これを避けるためには,サドルロードの通行が許される四輪駆動車を借りる方法と,コナから出発するマウナケア日没ツアーに参加する方法がある.ツアーは,夕食と防寒具が支給されて,ひとり150ドルだという.

 3000mを超えると,酸素不足のためガソリンが不完全燃焼してエンジンのパワーが落ちる.エアコンやラジオのスイッチは切り,ゆっくりと登ろう.不要な荷物は出発前にトランクからすべて出し,なるべく軽くして行きたい.私たちは,2000ccの車に3人乗車して無事山頂まで登ることができた.できるだけ排気量の大きい車を借りるとよいだろう.

 マウナロア 「長い山」という意味のMauna Loa山頂を目指すには,サドルロードを行き,プウフルフルで南に曲がる.「毛むくじゃらの丘」という意味のプウフルフルと名付けられたスコリア丘はハワイ島にたくさんある.ナパウ・トレイルにもあった.どれも植生に覆われた古いスコリア丘だ.

 簡易舗装道路終点(3300m)の気象観測所には,車8台分の公共駐車場がある.ヒロやコナが曇っていても,ここまで登ればたいてい晴れている.

 正面にマウナケアが見える.ポハクロア峡谷(Pohakuloa Gulch)とワイカハルル峡谷(Waikahalulu Gulch)のそれぞれ上部にV字型のエンドモレーンが見える.2万年前の氷期最盛期,マウナケアの上にのった白い氷体からヒトデのような脚が何本も伸びていたさまを想像しよう.

 ジープ道をしばらく歩くと,登山道入口の案内板が左手に出る.登り始めるとすぐ,避難所を兼ねた溶岩ブリスターの横を通る.歩きやすいパホイホイ溶岩を選んでケルンが積んである.登りのときはみつけにくいが,見失っても山頂にたつことができるから心配ない.ただし下りはケルンを忠実にたどろう.足場の悪いアア溶岩で不必要な格闘をしたくない.途中ジープ道と交差するが,そこで道を見失いやすい.登山道はジープ道を横切っていない.しばらくジープ道を歩くのだが,左右どちらが登り道なのかすぐには見分けにくい.迷わないために,公共駐車場にあるルート図を書き写していくとよい.

 モクアウェオウェオ レティキュライトからなる砕屑丘の麓につけられたトレイルをしばらく歩き続けると,Mokuaweoweoカルデラの一角であるノースピット(North Pit)の縁にいきなり出る.そこは死の世界だ.動物がいないだけでなく植物も生えてない.だから音がない.自分の耳をかすめる風の音だけが聞こえる.空の色が青く,空気が薄いのがわかる.

 腕時計についている高度計が,3995mを表示したあとFULLとなったまま動かない.山頂に近づくにつれて傾斜が緩やかになる盾状火山だから,なかなか高度をかせげない.4000mを超えたあと,山頂(4169m)までの最後の3kmがきつかった.高山病で頭ががんがん鳴った.

 

 山頂から見たモクアウェオウェオ・カルデラは,新しい溶岩に覆われた平坦な床が垂直に近い壁で囲まれていて,キラウエア・カルデラと似ているが,それよりはるかに大きい.1940年スコリア丘がカルデラ床の右手に見える.向こう側のカルデラ縁に立っている建物はマウナロアキャビンだ.

 気象観測所からノースピットまで2時間50分.山頂まではさらに1時間10分.山頂での滞在30分.帰路は3時間30分だった.

9.日本への帰国

 ホノルル空港で乗り継いでその日のうちに帰国する場合は,コナ空港(あるいはヒロ空港)を早朝便で発たなければならない.前夜までに予約の再確認をすませ,空港には一時間以上前に到着しよう.これが,航空会社のオーバーブッキングから自分の身を守るコツである.

 荷物は,乗り継ぎ航空券を提示して,最終目的地である日本の空港まで預ける.こうしておけば,ホノルル空港では,国際線搭乗口の航空会社係員に航空券とパスポートを見せるだけでよい.アメリカの出国手続きはたいへん簡素化されている.


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