プナルウ・ビーチパーク --風とカメと若者と--

(堀越郁夫)

 キラウエアの1日目の見学を終え、その日の宿泊地、プナルウ・ブラック・サンドビーチ・パークのキャンプ場に向かう。キラウエア見学のベースキャンプとして3泊する予定である。すでに日本から予約金(一人一泊1ドル)を支払ってある。女性2人は、ここから車で5分程のB&B、ベッキーズに宿泊だ。キラウエアから11号線を1時間ほど下って、到着したのは日没直後であった。

 車から降りて驚いたのは、海からの強風だ。テントの設営が危ぶまれ、別のキャンプ場への移動も検討されたほどだ。先客のテントの張り方を見習い、谷のようになったところにかたまって張った。眺めを優先した成夫君のツェルトはつぶれた。

 やや風が治まったのでピクニックテーブルで夕食にした。東屋やかまどもあるのだが、地元の人達が使用中だ。気が付くとその人達がしきりにこちらを見ている。ハワイのガイドブックの『ビーチパークは危ない。茂みの陰に賊あり。』という文が思い出され、怖くなる。レンタカーのおいてある駐車場も、地元の若者が集まっている。ピックアップトラックの荷台にのり音楽をかけて駐車場の中をぐるぐる走っている。

 おっかなびっくり行ったトイレの帰り道、先程からこちらを見ていた男に声をかけられた!背筋が凍る思いがしたが、落ち着いて彼を見ると私の電池式の蛍光灯ランタンを指さしてなにか言っているようだ。つけてみせろということかなとランタンをつけると、感心したようにほめ言葉をくれた(ように思えた)。それで、あいまいに笑ってその場を立ち去った。

 9時を過ぎると人が少なくなったので、東屋に場所を移してワインを飲みながら作戦会議だ。このキャンプ場の治安が悪そうなこと、翌日の計画のオーシャンエントリーから夜遅くに帰ってくるには遠いことなどから、朝にはここを引き払い、ナマカニパイオキャンプ場に移ることを決定した。

 10時頃就寝。安眠にマットとワインは必需品。まだ地元の若者が青春を謳歌しているが、すんなり眠りの中へ。

 翌朝6時半に波の音で目が覚める。テントからはい出してみると、空にはまだ星が光っており、水平線にある雲の上が白んできている。あまりの美しさに、ゆうべ怖がっていたことも忘れて一人で散歩する。朝日は水平線からではなく、雲から昇ったが、朝の光を浴びて椰子の木の林が美しい。昨日、日が暮れて見られなかったブラックサンドビーチを歩いてみる。ビーチを作っているのは単なる陰気な黒い砂ではなく、ガラス光沢のある、キラキラした黒い砂なのだ!ビーチの端で、ブルドーザーのキャタピラの跡のようなものを見つける。旅行前の勉強会で、このビーチにはウミガメがやって来ると聞いたことを思い出し、それがウミガメの足跡であることがわかった。足跡の主を探したが、すでに竜宮城へ帰った後のようだった。

 朝食の後、急いでテントをたたんで出発した。美しい朝の風景を見た後では、もう少しここに泊まりたかったなと未練が残った。昨夜ジロジロ見ていた男は、単に怪しげな日本人の一行を珍しがっていただけかもしれない。若者たちも、陽気な気のいい連中だったのかもしれない。そんな事を考えながら車を走らせた。