5.22統一見解にみられる日本火山学の前進

有珠山の火山活動に関する火山噴火予知連絡会統一見解が,臨時火山情報 第21号としてきのう発表されました.

はじめに観測事実を詳しく書いて,それを受けて未来予測をしています.このスタイルを,私は大歓迎します.願わくは,記者配布された全35ページの資料をウェブに置いてくれるともっといいです.気象庁が忙しくてできないのなら,他の関係機関が置いてもいいじゃないか.火山情報を,日本気象協会北海道民間気象会社がすでに置いているのですから,できないはずはない.著作権問題はないはずだ.

▼前回4.12統一見解文を読んで,翌日わたしは次のように書きました.

さて,4.12統一見解の文章は,次の二個所でいちじるしい個性を発揮しています.

今後、地下水との関係が変化した場合には、北西山麓でやや大きな爆発が発生し、時には火砕サージを伴う可能性がある。このような活動に推移するとすれば、その前には、噴煙等の変化、地殻変動等の総合的監視解析によりその到来を判断することは可能である。

大規模噴火に移行する前には地震、地殻変動等に変化が観測されると考えられる。

3.31噴火より悪いことが起きるときには,その前兆をとらえることができるという自信がここにはっきりと表明されています.

このふたつの自信たっぷり表現は,今回の見解文では妥当な表現に改められています.これは,40日の経過が予知連をしてそうさせたのではなく,予知連が前回の文章表現の不適当を認めたものだと私は思いたい.

噴火、隆起、地震活動等が依然として継
続していることから、マグマと地下水の新たな接触などによって、現在の活動火口
周辺に影響が及ぶ規模の爆発が発生する可能性は、当分続くと考えられる。

ここに,(前回あった)その予知が可能であるの表現が,今回はない.

 また、今後、地下から供給されるマグマの量が増大して、現在の活動域または新
たな場所で更に大きな噴火に発展する可能性も否定しきれないが、その場合には事
前に地殻変動、地震活動、地表変形、噴煙等の変化をとらえられる可能性が高い。

「可能性が高い」という表現をもちいて,100%確実であると保証できないことを認めている.

というように,今回の統一見解は前回のそれにくらべて格段によくなっています.主張をどこにおくかではなく,国の重要機関が出す情報として形式的な不適当はほぼ解消されています.95点を差し上げられます.

▼さて,住民のみなさんがもっとも知りたいこと,これからどうなるか,を下で論じましょう.きのうの予知連統一見解は,終息を見越したわけでも,3.31より深刻な噴火がこれから起こることを見通したわけでもありません.けさの新聞各紙が伝えた住民のみなさんの声には,過度に安心しているものや過度の心配しているものが見受けられ,情報を正確に伝達することがむずかしいことを,私はあらためて思い知らされました.

未来のことは断定的には言えません.言えたらおかしいでしょ?生まれたばかりの子どもが誰と結婚するか,もしわかっていたら,この人生ちっとも楽しくないでしょう.未来が確定していないからこそ,人生が楽しくて豊かなのです.

予知連が,複数の未来予測を見解文に書いたのは,よかった.シナリオごとに発生確率を付記したら,もっとよかっただろう.あいまいな情報をもとに意思決定しなければならないときは,数字をつかった確率表現することがたいへん有効です.多いとか少ないとかの定性的表現では不十分です.はっきりと数字を示して定量的に表現することが,リスク管理の常識です.数字では表現できないというのは言い訳にすぎません.(0%と100%を使わない限り)数字で確率表現して誤りを犯す心配はないのですから,非難をおそれずに確率表現してください.

今回のように,情報の送り手とそれを利用する人がまったく異文化組織であるときは,そのことがとくに重要です.専門の世界に閉じこもってふだんは世間とかかわりなくすごしている理学者が情報を出し,なんでも広く浅く接触し百戦錬磨の行政者がそれを受け取って意思決定するのですから.次回,統一見解を出すときは確率をぜひ数字で述べてほしいと希望します.

では,私が考える確率を下に示します.地域住民のみなさんの参考になれば幸いです.私の見積もりを絶対視せず,ほかの火山専門家にも聞いてくださいね.

50% このまま静かに終息する.
30% 4月初めくらいの爆発はあるが,3.31噴火の強さを超える爆発はないまま終息する.
20% 3.31噴火を超える強さの爆発がある.

さんこう:有珠山の論理ツリー5.20

早川由紀夫 2000.5.23.1345