Mime-Version: 1.0
X-Sender: mat@133.5.168.79
Date: Tue, 23 May 2000 17:20:29 +0900
To: hayakawa@storm.edu.gunma-u.ac.jp
From: "松島 健" <mat@sevo.kyushu-u.ac.jp>
Subject: WEBの5/15の記述について(コメント)

早川由紀夫様

松島@九大地震火山センターです.ご無沙汰しています.

まだ,WEBに全部に目を通していませんが,
5/15の記述で指摘をうけましたので,ちょっとコメントさせていただきます.
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 この変動データを記者に提供した北大と九大の専門家にも,若干の落ち度があった
と言わざるをえません.変動が発生したのがいつで
あるか,明示的に書くべきでした.わからないから書かなかったでは,許されませ
ん.情報発信者は,情報の内容だけでなく,発信した
情報が受け手によってその後どう取り扱われるだろうかまで意識すべきです.それが
引き起こす結果について,責任を一定限度まで問わ
れます.変動期間を明示しなければ,受け手は最近変動したと理解してしまうだろう
と容易に想像できたはずです.マスメディアの担当
者はしょっちゅう入れ替わります.受け手がそういう人たちであることをよく理解し
て,もっと親切な説明文を書いてほしかった.同様
の観測をしている国土地理院のデータとの比較に言及しなかったのも不十分でした.
(0940)
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1)「変動データ」を記者に提供したのは,噴火予知連事務局(気象庁)です.
我々は記者に直接データを提供していません.有珠山総合観測班でも,国土地理院
等は自前で記者会見をひらいたり,報道投げ込みをしていますが,大学関係者は
基本的にマスコミに直接データを提供していません.
観測データ/解析結果は,大体隔日でひらかれる噴火予知連有珠山部会で検討
議論されます.その際にデータ提供者も参加して補足説明することもあります.
噴火予知連事務局は,その提出されたデータから目ぼしいものを抜粋して
部会のあと開かれるマスコミ記者会見で発表します.その場で1,2名の予知連
委員(ほとんどの場合は,岡田さんか宇井さん)も参加し,記者に説明したり
質問を受けています.

2)したがって,我々のデータは記者発表を意識して作っている訳では
ありません.あくまでも部会での判断材料として提供しているのみです.
しばしば,「マスコミ記者会見で使ってよいか」と事務局から聞かれはします.
しかし,我々はその資料をマスコミ用に作り直している時間はありませんし,
予知連委員が記者会見で説明質疑してくれることを条件で了承しています.

3)我々は資料には噴火前(1992-1993)と噴火後(2000 5月)データの比較と
明記しています.また具体的にいつどれぐらい隆起したかについての判断は
有珠山部会で検討されるべきとして,あえて説明文には加えていません.

4)国土地理院のGPSが噴火前から観測していたのは,周囲の3点のみで,
1997年ぐらい以降からの観測データしかないはずです(未確認ですが).
しかも,予知連に毎日提出されているのは,地震が起こりはじめた2000年3月末
からのデータです.
我々のデータは国土地理院のGPS観測網の内部の領域のデータですし,
1993年以降の長期にわたる隆起現象を含めて捉えていると考えています.
したがって,「国土地理院データと同様の観測をしている」わけでは
ありません.
とうぜん部会では,周辺データである国土地理院のGPS観測網も参考にして
議論はされたと思います.


松島さん,

メールありがとうございます.いただいたご意見に沿って,私の考えをすこし補足します.

1)「変動データ」を記者に提供したのは,噴火予知連事務局(気象庁)です.
我々は記者に直接データを提供していません.有珠山総合観測班でも,国土地理院
等は自前で記者会見をひらいたり,報道投げ込みをしていますが,大学関係者は
基本的にマスコミに直接データを提供していません.

大学も,直接マスコミにデータ提供して記者会見するようになるとよいと思います.

2)したがって,我々のデータは記者発表を意識して作っている訳では
ありません.あくまでも部会での判断材料として提供しているのみです.
しばしば,「マスコミ記者会見で使ってよいか」と事務局から聞かれはします.
しかし,我々はその資料をマスコミ用に作り直している時間はありませんし,
予知連委員が記者会見で説明質疑してくれることを条件で了承しています.

マスコミ記者会見で使ってよいか」と事務局から聞かれ,それを承諾したのなら,それが引き起こす帰結に,情報提供者は一定程度の責任を負うべきであると私は考えます.承諾するにあたって条件を付けるなら,その条件を明確にして,それが確実に履行されたとの報告を要求するのが必要だと思います.もしその条件がみたされないのなら,次回聞かれたときからは,ノーというべきです.

ほんとうは,記者発表されてもいいように,使われそうな図にはあらかじめ,必要な情報を盛り込んでおいて,単独で流布しても誤解が生じないように工夫するのがよいと考えます.図が選ばれて記者発表されるのは,社会に高く評価されている証(あかし)だと思ってほしい.

部会の判断材料に使用するためにだけ情報提供するところに,これからも留まろうともしお考えなら,有珠火山危機の対応のために使われた何十億円もの予算と同様の予算は,今後の火山危機で(そのような監視機関には)配分されることがが期待できなくなるのではないでしょうか.

3)我々は資料には噴火前(1992-1993)と噴火後(2000 5月)データの比較と
明記しています.また具体的にいつどれぐらい隆起したかについての判断は
有珠山部会で検討されるべきとして,あえて説明文には加えていません.

やはり,データ生産者である北大と九大がその解釈までを行って,この図のなかに,「いつ」の情報をもっと詳しく加筆すべきだったと私は考えます.このデータが活用された場の目的が,理学の進展ではなく,防災だったのですから.また大学は,ほんらい研究機関であって,業務機関ではないのですから.

4)国土地理院のGPSが噴火前から観測していたのは,周囲の3点のみで,
1997年ぐらい以降からの観測データしかないはずです(未確認ですが).
しかも,予知連に毎日提出されているのは,地震が起こりはじめた2000年3月末
からのデータです.
我々のデータは国土地理院のGPS観測網の内部の領域のデータですし,
1993年以降の長期にわたる隆起現象を含めて捉えていると考えています.
したがって,「国土地理院データと同様の観測をしている」わけでは
ありません.
とうぜん部会では,周辺データである国土地理院のGPS観測網も参考にして
議論はされたと思います.

松島さんのおっしゃる「我々のデータ」の独自性と重要性をわたしは十分理解できませんが,同じGPS観測だという意味で私は,「同様の観測をしている国土地理院のデータ」と書きました.

早川由紀夫 2000.5.23.1820