この問題を考えるときに参考になる本


雲仙フライデー事件と,それへの私の考え方

ルポライター鎌田慧が,1991年7月11日,災害対策基本法63条の警戒区域に指定されて立入が禁止されていた区域内に入り,その記事を雑誌『フライデー』に書いた.これを読売新聞が大々的にとりあげて,鎌田を批判した.このとき,全国紙では朝日新聞だけが鎌田に同情的だったと記憶している.鎌田は,朝日新聞の投書欄「声」で読者の批判に答えて,反論を投稿し,採用された.(上記『大災害!』巻末に,彼自身の手でこの事件の顛末が詳しく書かれている)

わたしは,この事件に関して,鎌田および朝日新聞の考え方に共感する.いっぽう,読売新聞に対しては嫌悪感を覚える.鎌田が『大災害!』で展開している論に同意するところが多い.

しかし有珠山のいまの取材状況には,つよい疑問を感じる.もっとも先鋭的なのが朝日新聞社であることは,雲仙フライデー事件のさいに朝日新聞が鎌田に同情的だったことと関係があるように思える.しかし,今回の朝日新聞は履き違えていると思う.

いまの朝日新聞は,取材行為にかかるリスクを正確に推し量っているかどうか,たいへん疑問だ.後先なしにやみくもに突っ込んでいるだけのように,私にはみえる.赤子と同じようにみえる.

鎌田が警戒区域内に立ち入ったときの雲仙岳は,6月の危機が一段落して,十分な配慮をすれば立ち入ってもさほどの危険がなかった時期だった.実際,多くの住民が立ち入っていた.鎌田の例を引き合いに出して,いまの有珠山突撃取材を正当化するのは当たらない.

取材の自由・報道の自由を守ることは大切である.しかしその権利を行使して噴火現場に接近することが許されるのは,取材・報道すべき対象を熟知し,現場に踏み込むリスクを正確に推し量るちからを身につけた人だけに限られる.今回の有珠の場合は,火山噴火について十分な学習をすませた人だけに許される行為だ.

(4.9.1130/1500/1740)