6.29(木)

コラム これこれ桜井洋子さん,昨日の「可能性はない」と今日の「ほとんどなくなった」の違いは何ですか,なんて聞かないでちょうだい.記者がとまどうじゃない.(1820)

東京都と三宅村の災害対応に疑問

今回の東京都と三宅村の災害対応にいくつか疑問があります.三宅村は小さいから,この私の疑問提出は巨大都市・東京都へ向けられたものだとお受け取りください.じっさい島での行政判断は,東京都の出先機関である三宅支庁によるところが大きいはずですから.

26日の避難勧告がでたのが,阿古(21:10),坪田(21:39),三池ほか(21:54)だったというのはいかにも遅かった.噴火の恐れを明記した緊急火山情報は19時33分に発表されました.この情報は,活動火山対策特別措置法21条にもとづいて,気象庁から直接東京都知事宛てに伝えられたはずです.緊急火山情報発表から最初の避難勧告発令まで1時間37分もかかったのは,いちじるしい不適当です.その間に三宅島が噴火を始めてしまうことは十分あり得ることでした.この1時間37分に誰が何をして何をしなかったかを,早急によく調べて反省し,有効なシステムを新たにつくりあげることを望みます.

東京都災害対策本部は,変色水が確認されたあと27日11時50分に,三宅島阿古地区大鼻沖海水変色域上空の飛行中止についてという要請を出しました.法律に基づかないこの自粛要請を出したのは,安易で軽率な行為だったと思います.あのような変色水の上を飛行することがそれほど危険だと私は考えません.このような(不必要な)自粛要請のために本来得られるはずだった火山監視情報がすみやかに得られなくなったらたいへんです.テレビ局などマスメディアによる空からの映像が貴重な火山監視情報を過去の噴火で提供してきた事実を,よく思い出してほしい.

その時刻に,そこでのマグマ水蒸気爆発の恐れを三宅島現地対策本部が判断したというのも,おかしな話です.そのとき三宅島現地対策本部がそれを判断できるだけの能力を有していたかどうか疑わしい.また,その判断の役目を負う役所は,気象庁でです.火山噴火の危険アセスメントは,現地よりむしろそこから少し離れた本部のほうが正確・的確にできたという過去の経験が,最近の噴火でたくさん積み上げられていることも指摘しておきましょう.(1605)

スコリアは出てないらしい

27日午前の変色海域はマグマが海底に顔を出したために起こった可能性が指摘されています.テレビ画像(嶋野さんのページへのリンク)をみて,スコリアなどの噴出物が海面に浮遊したのではないかとささやかれています.しかしどうやら,固形噴出物が海面に浮遊した事実はないようです.船で変色海域にはいった人の証言を間接的に得ましたが,そういうものはとくに見あたらなかったとのことです.

海底に枕状溶岩が生じている可能性はまだありますが,それもまもなく音波探査(魚群探知機で十分)や水中カメラで確認されるだろうと期待します.

もし枕状溶岩もなくて,割れ目が海底に走っているだけだったら,27日午前の変色水をもって噴火があったというのがいいかなあ,どうかなあ.(1430)

火山観測と情報公開の進歩

三宅島の地下でのマグマの動きが今回は手に取るようにわかりました.時間の経過とともに西方海域に移動していった震源,26日24時ころさかんに動いてその後緩和した傾斜計,それから GPS .島に地震観測点が一点しかなくて震源の位置さえ決めることができなかった前回1983年噴火のときの観測体制とくらべたら,隔世の感があります.

気象庁火山課の情報公開努力も指摘しておかなければなりません.有珠山のときは他省庁に大きくおくれをとった気象庁でしたが,今回の三宅島では記者会見をするたびに,ただちに(30分以内?)ウェブに上げています.このページをみれば,誰でも予知連委員になれる.ものしり火山博士が日本中にたくさん誕生することを願います.(0840)

2000年貫入事件 

最近数百年の三宅島は,22年の倍数で噴火している傾向があることは,多くの人が認めるところです.20世紀は,1940,1962,1983年に噴火しました.最近3回は,たまたま22年ごとにいつも噴火していましたが,噴火しないで貫入事件だけで終わることも19世紀以前にはよくあったようです.今回2000年は,それが起こったのだと思います.貫入事件だけで終わるとは,マグマが地下深いところから上昇しては来たものの,地表に達することができずに(噴火としては)不発に終わることを言います.

噴火事件になるか貫入事件に留まるかは,地表で暮らす私たち人間にとっては重大な違いですが,マグマにとってみたら,どちらもたいして違わないものです.地下での大きな移動はどちらも同じように起こります.

地下浅いところに移動してきたマグマが地表に噴出するかどうかは,そのマグマがもっている力と,まわりの環境に依存します.今回のマグマは実力が足らなかったという大島@東大さんのフジテレビでの28日朝の解説は,的確だったと思います.

ですから,噴火の恐れを明記した26日19時33分の緊急火山情報は,結果的には(たいした)噴火がなかったから社会的にははずれでしたが,学術的には完全な当たりでした.

ただし27日午前の変色海域は,今後よく調査されるべきです.あそこであのときマグマが出た可能性もあります.(0820)

予知連コメントと避難勧告解除

平成12年6月28日17:20 気 象 庁三宅島の火山活動に関する火山噴火予知連絡会(伊豆 部会)コメントに,「 なお、島の東部及び山頂付近での噴火の可能性はないと考えている」とあります.

これは,あきらかに言いすぎです.ゼロリスクはないのですから,「可能性はない」とはぜったい言ってはいけません.でもなぜ,予知連がこうまで明言しなければならなかったか,東京都災害対策本部は,真剣に自省してほしい.これは,予知連が都対策本部へ送った精一杯のメッセージだとわかってください.

前日の27日17:15の(伊豆 部会)コメントで,予知連が「島の東部での噴火の可能性は極めて低い」と言ったのにもかかわらず,都対策本部は,坪田と三池の住民を帰す行動を起こしませんでした.予知連は,27日夕刻のコメントを出したことで直ちにそうなることを望みました.それがかなわなかったから,24時間後,これほど強い調子でメッセージを再度出したのです.

石原知事へ,坪田と三池の住民をすみやかに自宅に帰しなさい.この地域の住民をこれ以上留めることは,無配慮な行政権力による横暴だとわたしはみます.いまの状況は,伊豆大島1986年噴火のとき,「嵐の前の静けさではない」と学術分野への越権発言をしてまで住民を島に帰した鈴木知事とまったく逆です.いまから避難所にエアコンを設置するなんて,愚の骨頂です.あきらかな税金の無駄遣い,失政だ,ということになりましょう.(2000.6.29.0755)