堆積物から噴火をよみとる
Reconstructing Past Eruptions from the Deposits
 
 火山噴火を起こすマグマは1000゚C程度の高温だから,それが常温まで冷却するには時間がかかる.この冷却過程を使って数年程度までの時間を測ることができる.
 平原火砕流の堆積物から上昇した火山ガスが,上を覆った嬬恋軽石の表面を汚染している.火砕流堆積物の最上部4cmは滞留したガスに着色されてピンク色になっている.平原火砕流堆積物がまだ十分に冷え切らないうちに嬬恋軽石が降ったことがわかる.おそらくその時間差は数年以内だろう.
(群馬県嬬恋村鎌原)
 平原火砕流堆積物の中に生じたパイプを伝わって上昇した火山ガスが,その上を覆った嬬恋軽石を赤変させている.パイプから外れた位置にある嬬恋軽石は白い.
(群馬県嬬恋村の赤川土取り場)

 北海道駒ヶ岳火山の1640年噴火は,山体崩壊によるクルミ坂岩なだれの発生のあと,ただちにプリニー式軽石噴火に移行した.その降下軽石堆積物を覆うラハール堆積物の基底4cmは赤く変色している.軽石が常温まで冷却する以前にこの地点へラハールが達したからである.
(北海道鹿部町のトドメキ川河口)

 ストロンボリ式噴火の堆積物である2・3Rスコリアと5Rスコリアは高温で堆積したから酸化して赤くなった.両者の間に挟まれる4Sタフリングは噴出時に海水によって効果的に冷却されたため,堆積時にはすでに酸化されないほど低温だった.

 このように堆積物の温度の違いは噴火様式の変遷によってつくられることがある.4Sが長い時間地表にさらされた部分であり下位の2・3Rと合わせて冷却単位を構成するとみるのは,この場合,誤りである.実際これら3つの堆積物は,1983年10月3日夜間の約8時間の噴火でつくられた(荒牧・早川,1984).
(三宅島新鼻)
 クリートウッド溶岩の熱によって7700年前のプリニー式軽石堆積物の下部5mが赤く焼かれている.このことは,カルデラをつくる巨大噴火に先行して流紋岩の溶岩流が流出する例があることを示している.防災面で重要である.日本でも7300年前に起こった鬼界カルデラのアカホヤ噴火(M8.1)の直前に長浜溶岩の流出が先行した例がある.
(Creetwood, Crater Lake, Oregon)


 火山灰堆積物の表面が溶岩流の熱で焼かれている.しかし,この関係は両堆積物の時間差が短いことをかならずしも示さない.時間差が短いことが言えるのは高温物質をおおう地層が焼かれているときだけである.
(Bend, Oregon)