2005.12.02 朝日新聞群馬

 

浅間噴火 この先も

 

前夜の予報通りに晴れ上がった早朝、ヘリコプターで浅間山を目指した。旧軽井沢の上空まで来ると、白糸の滝付近が黄金色に染まって見えた。カラマツの紅葉が盛りだ。

 

火山の上空を飛ぶのはこれが初めてではない。伊豆大島の砂漠に広がった真っ黒な溶岩の上、雲仙岳の山頂にできた灰色の溶岩ドームの上、三宅島の中央にできた深いカルデラの上を、噴火中あるいは噴火直後に飛んだ。そこで私の目に飛び込んできたのは、荒々しい火山の姿だった。火山学の研究対象としては興味深かったが、美しい景色ではなかった。

 

浅間山は美しかった。前掛山のなめらかな曲線と黒斑山がぶつかるところにある湯ノ平に、二週間前に降り積もった初雪はすっかり消えていた。

 

鬼押出しが山頂火口の縁から北に流れ下っている。222年前の噴火でできた溶岩流だ。黄金色と濃緑色に塗り分けられた六里ヶ原の森に、無数の別荘やペンションが点在しているのがわかる。オレンジ色の観覧車と、高層ホテル・マンションがひときわ目を引いた。

 

これから始まる秋のすばらしい一日を、大勢の人々がここで楽しむだろう。行きつけの北軽井沢のレストランは、きょうも混み合うのだろうか。嬬恋の森の中にある小さな喫茶店でいただく手作りケーキと紅茶は、さぞかしおいしいだろう。

 

この喫茶店は、222年前に火砕流が流れた土地に建っている。あのレストランは897年前に別の火砕流が流れたショッピングセンターの一角にある。

 

大地を焼き尽くす火砕流噴火を、浅間山はこの先もかならず繰り返す。そのときは、私が別の火山の上空で見た荒々しい景色がここにも広がるだろう。ただし、私が生きている間に起こるかどうかは、わからない。

 

輝くばかりの秋の一日を浅間高原で楽しく過ごすひとたちに、この事実をどう伝えるべきか、それとも伝えるべきでないのか。揺れ動く心のままへリポートに着陸した。

 

早川由紀夫(群馬大学教授)