朝日ニュースターCSテレビ「説明責任」
2000年9月9日2300-2400 
(収録は9月7日1600-1700)

部分

高橋真理子(朝日新聞・論説委員)「早川先生にまずお伺いしたいのですが,いったん安全宣言が出ましたね.あの時点では,やはり火山学者としては,これはまあこれくらいでおさまるだろうと,そういうことだったのでしょうか?」

早川由紀夫(群馬大学)「私自身ほとんど99%,そう信じました.ほかの火山学者の人たちもおそらく同じだったろうと思います.それが変化したのが7月8日ですね.山頂で陥没が起こった.噴火が起こったとしか,その日にはわかりませんでしたが,翌朝わかったんです」

高橋「陥没というのは何を意味するのですか?」

早川「地下にたぶん空洞があって,そこへストンと,落とし穴のように落ち込んだわけです.いつからあいていたとか,よくわからないというのが正直なところですけど.その時点でもわたしはまだ楽観していまして,いい(観光)名所ができたとか.

それが7月8日の一週間後,7月14日にたくさん火山灰が降りまして,北東側の人たちのところに,住宅に何cmも火山灰が降り積もって,たいへんなことになりました.そのあたりから,なんか,これはただごとではないというふうな感じに,少なくとも私は感じてまいりました」

高橋「最初のころは,予知連の井田会長はマグマの動きが手に取るようにわかるなどというご発言もされていましたよね.最初のころは,やっぱりそうだったんですか?」

早川「そうだったと思います.非常に良くわかりました」

高橋「陥没ができた以降は,もうまったくわからなくなってしまったのですか?」

早川「まったくではないけど,どんな事態が進行しているかという把握すらもむずかしい」

早野透(朝日新聞・編集委員)「最近の話で,私は全然わからないのですが,火山学の進歩はまだ,よくこれらの状況を把握するに至っていないみたいな,ご発言もあったようでしたね」

早川「まあ,火山学はそんなに成熟した学問ではありませんから,あまり期待してもらっては困る.地震(学)のかたが神戸の(地震の)あとにそういうことをたぶんおっしゃたように思いますけど,火山学はそれに輪をかけて.地震というのは破壊現象ですから,ある程度物理的に説明できますけど,火山の噴火というのは物が移動してきて,それが地表に噴き出して,非常に複雑な様相を呈していますから,それを統一的に理解するのはたいへんむずかしいものであります」

高橋「有珠山のとき,見事に予知が当たって,ふつうのかたたちは非常につよい印象を受けましたよね.地震のときはうまくいかなかったけど,火山ならば予知ができるのだと.これが,今回の三宅島で,信頼感がずたずたになってしまったというなことが言えるんじゃないかと思いますけど.そもそも有珠山が例外的だったということですか?」

早川「いえ,三宅島もうまく行ったと思います.有珠山がうまくいったのと同じように,三宅島も6月26日の事態をうまく把握して,事前に緊急火山情報を出して,翌日海底噴火がありました.そういう意味から言うと,三宅島でもうまくやりました.

しかし有珠山と違うのは,その後の展開です.(人間社会ではなく)火山の(展開です).有珠山はそのまんま穏やかになってしまった.三宅島は,そのあと何か始まってしまった.そうなってしまったものを,いまの日本の火山学で追いかけるのはかなりむずかしいというので,いまわたしたちが難儀をしている」

高橋「今後どうなっていくかということに関しては,ほとんど何もわからないのですか?」

早川「いえ,何もわからないことはないですけど,ある程度のシナリオ,場合分けはいくつか言うことができますけど,むずかしい,というふうな表現で(答えさせてください)」

早野「あと,これからはどんなことが想定されるのですか?」

早川「たいへん悪いことから,すごく楽観的なことまで,いろいろな幅があって,そのどこをとるかということは,確率表現しかできない」

高橋「具体的にどういうこと?一番楽観的なのは,このまま静かになってしまうということですね.最悪の事態というのは,どのくらいの規模の爆発が起こりうるのですか?」

早川「最悪というのは,人間に対する最悪だとすれば,火山の爆発によって人間が被害を受けるというスタイルではないと思います.人間が被害を受けるためには火山が爆発しなくてもよい.たとえば大規模な泥流が発生すれば,ひとつの村が壊滅することが過去,世界中の事例であるわけですし.

いまそこに,7つの火山の危険が書いてあります.土石流・石が降る・大岩の着弾・火山ガス・火砕流.この5つはもうすでに報道されています.予知連も,それを見解に書いています.さらに,もう少し先に進みますと,土砂に埋没したり,海の火山ですから,津波を発生させるかもしれない.そういうたくさんの要素がありまして,かならずしも火山で爆発して被害を受けるだけではない.たとえば火山ガスなんていうのは,いまたいへん」

早野「東京でなんか異臭が起きちゃったというのは」

早川「(原因が)三宅島であるというのがほとんど確かだと思います」

早野「津波というのもたいへんですね.いろいろ関東平野の地域全体に被害が広がる可能性があるわけですね」

早川「南関東,およびほかの伊豆諸島の島々の海岸地域に,津波の心配というのは,火山災害に限らず,津波地震では常にそういう心配があります」

▼岩井國臣(自由民主党・党災害対策特委員長代理)「しかしそのときは,まだですね.私の印象では,三宅島の降灰は東北部にずっとございましたが,ひどい状況だと思いましたけれども,まだこんにちのような状況になるとは全然予想もつかず,むしろ災害対策の中心は,神津島・新島のほうかななんて(思って),三宅島のほうは,降灰の除去だけ公費でもって,なかなか家屋まではできないですけど,道路その他を,公的な場所について降灰除去すればいいのかななんて,そんなふうに実は思っておったですよ.

8月18日に続いて29日に,さきほど説明あった8000mの大噴火が起こったということで,これは異常ならざるものがあるということで,官房長官・危機管理官・国土庁の防災局長へわれわれ三党としての要望書をまとめて,申し入れをした」

▼早川「火山噴火予知連というのは気象庁長官の私的諮問機関ですから,公的位置づけがないわけです.そういった予知連絡会に対して都知事が公式見解を求めたわけですから,そこに問題があるわけです.公式見解を出せる立場にない機関にそれを求めるのは,しょせん無理だということです」

▼早川「9月1日の前に,すでに住民の方たちは2/3以上のかたが(島から)出ていました.自主的に.つまりどういうことかというと,島の方たちはどうしても出たかった.島の方たちの意向がすくわれなかったということで,これはかなりきびしい話だったというふうにわたしは考えております」

高橋「東京都はいちおう,自主避難されるかたの受け入れ態勢はちゃんとしますよというようなことは言ってましたよね.自主避難のかたも強制避難のかたもこちらの受け入れの状況は変わらないようにしますよと」

早川「たしかに9月1日前でも自主避難して来たかたにお世話していたようですけれども,やはり村長とか都知事からの一定の呼びかけがない限りにおいては,村から出られない立場の職業をもっていらっしゃる方々がたくさんいたと思います.そういうかたは出たくてもでられない.出たくないひとまで出す必要はありません.出たい人には出られる環境を作ってあげることが上に立つ方のつとめであるとわたしは考えます」

▼高橋「(緊急火山情報を出さないのは)確率的に,生命身体になにか影響が及ぶ可能性があまりないと気象庁が考えているということですか」

早川「そういうふうに理解されますが,一方で矛盾することがみえてきます.おととい5日ですが,島から測候所員が出ました」

高橋「引き上げちゃったんですか?」

早川「はい.測候所は危ないから支庁に動いていました.支庁で執務していたそうですが,5日の午後にかとれあ丸内に移ったと東京都が公開しているインターネットのホームページに出ています.測候所員が測候所にいられない.支庁にいられない.島にいられないというこのことに関して,気象庁長官がなぜ緊急火山情報を出さないか,私は知りたいと思います」

▼早野「ぼくなんかも政治記者の雑駁なところでいうと,全部引き上げてきてしまうと,島を見捨てるという感じになっちゃってねえ.それもまたたいへんだなという気が.地元の人たちの気持ちがおさまらない」

岩井「おさまらないとおもう.したがって,村長さんもそれは望んでいない」

早川「一方では,避難して来た方々が,自分のお父さんやら旦那さんを島に置いてるわけです.すごく心配だと思います.どちらをとるかという問題ですね.島を取るかお父さんをとるか」

▼早川「岩井さんにお願いしたいんですけども,今回の三宅の災害はたぶん1,2ヶ月では終わらないと思うんです.長期化するのは避けられないように私は感じます.都内に避難なさった方々がみな都営住宅に移ってますけど,地域社会が分断されるようなかたちになるべくならないように,まとまったかたちで(住まわせてほしい).いまいろんな都営住宅に少しずつ行っているように私聞いているんですが,そうではなく,阿古地区はこことか,三池地区はこことか,そんなようなかたちができたら,そうしていただけると,皆さん喜ぶんじゃないかと思います」

高橋「長期化というのはどのくらいのレンジを考えているのですか?」

早川「う〜ん.1年,2年,3年,悪ければ10年

高橋「えー,10年.そういうことは,ちゃんと言ってほしいですね」

早野「きょう初めて,そんな深刻さを感じた」

岩井「31日の予知連の井田会長のお話ですとね,(あくまでも)私の受け止め方ですよ.大噴火がいつ起こるかわからない.こういう状態が3,4ヶ月続くかもわからないし.1年続くかもわからないし.3,4年続くかもしれないし.いま先生,10年と,こう言われたけど.現時点ではわからないということですよね」

早川「いえ,そんなにわからないということでなく,いまの三宅島の進行は,3000年前に起きたこととよく似たことが起こっているようにみえます.そのときにどれくらいの時間がかかって何が起こったかは,ある程度,地質学的にわかります.そういう意味から,もし3000年前と同じようなことにいまから進むのであれば,ということでいま時間スケールを申し上げました.そのときには,都道の上に灰が1mくらい積もります.3000年前の事件ではそういうことが起こりました.そして山頂にカルデラができて,直径3kmぐらいの大きさのカルデラができあがりました.現在の大きさは,直径1.7kmです」

高橋「1mも積もったらもうたいへんなことですねえ」

早川「家屋は倒壊せざるを得ない」

早野「そうかあ.なんとなくぼくは2,3ヶ月かなあと思っていたですけど.おさまればいい,ありがたいですよね.いろんなケースを考えておかなければならない」

岩井「いずれにしろですね,まだ噴火が続くと思わざるをえないし,それの観測を続ける.それから,マグマの動きも含めてですよね,観測できるような体制を,早急に整えていく必要がある.どこまでこれからの予知というものができるかわかりませんが,まずその観測体制,それから監視体制を,それを早急に確立する必要があるというように思いますね」

高橋「それよりも,長期戦になる可能性がかなりあるということを関係者のかたたちのコンセンサスに,共通認識に」

早川「いや,いま言ったのは私の考えですから,ほかの専門家のかたがたは必ずしもそう思ってない人もいらっしゃいます.ですからそれは,むずかしい」

岩井「もうちょっとですからね,いろんなデータというか,観測データが必要なんじゃないですか」

高橋「それによって避難の形態がずいぶん違ってきますよね.いま子どもだけ一箇所に集めて,親はあちこちというそういう状態は,数ヶ月ならいいだろうけど,これが1年2年というレベルであれば,当然こんなことじゃ持たないわけですから