TBS報道特集 2000年8月13日

池田裕行キャスター「伊豆諸島の三宅島で最初に噴火の兆候が起きてから,もう1ヶ月半がたちました.しかし,その活動がおさまるどころか当初予想しなかった事態が次々と起き続けています.地下で何が起きているのか,最新のデータと研究をもとにさぐってみます」

ナレーション:見慣れた山が刻々と姿を変えてゆくさまは,住民の心に先の見えない不安感をかきたてた.そして,この異様な山の変化は,単に噴火だけでは説明がつかない観測史上未知の現象だったのである.

(上空のヘリコプターから7月9日)

大島治(東京大学)「はい.いまちょうどあの,三宅島雄山の山頂火口の上空です.元の火口が相当拡大したというふうにみられます」

ナレーション:最初の噴火翌日の雄山火口.国土地理院の計測によると,1億トン分の土砂・岩石が火口部分から失なわれている.火山灰などの噴出物は,多いといっても10万トン.ではあとの物質は,いったいどこに消えたのだろうか.

ナレーション:6日後,二度目の噴火は30時間あまりも続いた.噴煙がおさまるのを待って,上空から観察のうえ行なわれた試算の結果,火口内からさらに2億トンの質量が失なわれていることがわかった.むろん,2億トンもの何かが,外へ噴き出たわけではない.雄山火口は噴火を経ながらも急激なペースで,なぜか,沈み込んでいるのだ

ナレーション:噴火前の雄山.標高813mの山は,地元の人が言うように,穏やかなたたずまいをみせている.そしてこれが1回目の噴火後,7月9日に観測された雄山の姿である.この時点で,火口はおよそ100m沈み込んでいる.さらに2回目の噴火後,レーザースキャンを行なった22日の時点で,火口の底は実に400m以上も沈み込んでいた.

断面で見てみよう.8月3日までで,欠損量は推定7億トン.東京ドーム305個分という,この巨大な陥没量は,日本の火山の観測史上,前例がない.

ナレーション:(パソコン画面に表示された電子メール文章)「いまの三宅島について,私はたいへん心配しています.なにもなく月末まで過ぎれば,それ以降は,たいがい安心だろうと思うのですが.」群馬大学の早川由紀夫助教授は,雄山火口の異常な陥没ぶりに早くから注目し,警告を発していた火山学者のひとりだ.

(上空のヘリコプターから8月3日)

早川由紀夫(群馬大学)「ずいぶんと火口の大きさが広がっている.内側に向かってどんどん崩れ落ちているっていうことがわかります」

ナレーション:8月3日,上空から見た雄山の火口は,直径がさらに大きく広がっていた.

早川「火口の底に,ずいぶん大きな岩が,散在してますね.家ほどある,いやビルほどある石が転がってますね.よほど大きな崩落が起きたか?」

早川「こういう大きな火口が円錐形の火山島の上に開いてるのを見たこと,私ありませんでした.たぶん1000年ではきかない,3000年前くらいにあった状態をいま,作ってるんだと思います.それだけ珍しいことが起きているってことに注目すべきだと思います」

ナレーション:火口の底が吸い込まれるように落ち込んでいき,火口周辺も大きな規模で崩落を続けていることが確認された.では,その下ではいったい何が起こっているのか.あくまで仮説としながら,早川助教授は,火口の下の様子をこのように考える.

早川「(図を描きながら)その下にずーっと,煙突のような,私たちはこれを火山学では火道と言いますが,火の道と書きます.火道が地下にあって,その中をいまピンクで書きましたけども,これが何であるかよくわかりませんが,これが,下に一日50mぐらいのスピードで下がっている.そのことによって,山頂に,大きな空間が発生している,ということだと思います」

ナレーション:火道の中の岩石が,地震を起こしながらピストンのように下がっているのでは,というのが早川助教授の見立てだ.ピストンがなぜ下がるのか,理由は不明としながら,早川氏はこうも言う.

早川「まだしばらく下がり続けると思います.しかし何ヶ月も何年も下がり続けるということは考えにくい.そうすると,どこかで変化が起こるんだろうと思います」

ナレーション:8月10日の噴火では,噴出物にマグマ性の物質が見られなかったとされ,マグマの活動は終息傾向にあるとの見方も強まっている.では,問題の火口はどうなっているのか.噴火翌日,再び早川助教授と上空を飛んだ.

(上空のヘリコプターから8月11日)

早川「先週と全然違うのは,昨日の噴火の後ですから当然なんですけれど,火口の中段に,今でも,水蒸気と,それから,黒い火山灰混じりのジェットをあげる場所がある」

池田キャスター「あ,黒い煙が上がって小さい爆発がありましたね」

早川「あー,そうですね」

池田キャスター「いま1時25分です」

早川「あー,ジェットが,少し上がってますね,水蒸気爆発と言っていいでしょう.あ,よく見えますね」

池田キャスター「白煙の下に少し黒い煙がちらちらと見えます」

早川「ええ,火山灰が含まれていると黒く見えます.あ,いま,ずいぶん火山灰を含んだジェットが上がりました」

ナレーション:山は,まだまだ姿を変え続けている.火口の大陥没の果てに,何が待っているのだろうか.そして,この三宅島の異変と並行するようにもうひとつの異常事態が近くの海でも起きている.言うまでもない,神津島,新島近海の群発地震だ.

山岡耕春(名古屋大学)「マグニチュード6を越える地震がこんなにたくさん起きる群発地震というのは非常に珍しいですね」

ナレーション:この割れ目のはるか先,北西方向にある神津島・新島の近海では,さらに大規模なマグマの活動が考えられている.7月1日,神津島で震度6弱という強い地震が起こる.マグニチュードは6.4.崖くずれが発生し,車で通行中の男性ひとりが亡くなった.その後も地震は続き,その数は1万回を越えた.震度5以上の地震だけでも20回以上.これだけ長期間にわたって,強い地震が頻発するのもまた,世界の観測史上,例がないことだという.さらに注目すべき現象が観測された.神津島・式根島・新島が数cm単位で,それぞれ違った方向に動いているのだ.名古屋大学の山岡耕春助教授は群発地震と島の移動の原因をこう推測する.

山岡「(図を描きながら)こういうところにマグマが板状に,地殻を割って入ると,ここに書いてありますようなこの動きにだいたいなるんですよね.こういうとこにたくさん地震が起きる.これはまさにここにマグマが入ってきたってことを示している.これがこのひと月間の,だいたいおおまかに説明できるマグマの動きということになります.

ナレーション:山岡助教授によれば,三宅島北西の海底の下から,マグマが神津島のほうへ向かって進んできたという.マグマが岩盤を割りながら進むためにその周辺で地震が発生し,岩盤が押し広げられるために島もずれてゆく.島とマグマの位置関係は,このようなものと推定されている.

池田キャスター「地底から供給されてきたマグマの量がどのぐらいになっているのか?」

山岡「長さ20kmで,深さ方向10kmで,厚みが3mだと思うと,これでもし直方体だとすると,6かける10の8乗だから6億立方mくらい」

ナレーション:有珠山のときとくらべても数倍の量のマグマが海底の地中3kmの深さで動いている.7月1日のあの地震も,このマグマが神津島近くまで到達し,引き起こしたものだという.

ナレーター:神津島近海の地底に貫入しているマグマは徐々にその厚みを増してきていると,名古屋大学の山岡助教授は指摘する.

山岡「わりと広い範囲にマグマが上昇してきたのが比較的狭い範囲に局在化した,ということが言える.これがこの間の8月3日4日に急に地震活動か増えた,そういう原因かなと思ってます」

ナレーション:たとえば神津島はこの1ヶ月あまりで50cmほど動いているが,8月の3日から4日にかけてはたった1日で10cmものずれを記録しているのである.

山岡「その前一週間ぐらいに,すこしスピードを鈍らせていて,その分を取り戻すかのように急に動いたようにみえる.どっか太ってどっかちょっと止まって.それが,あるときに急に,ばたばたばたっと太ってというような,ちょっとこう太り方がぎくしゃくしているっていうことが,いま見えてきているのかなという」

ナレーション:こうした変化がどのような現象を招くのか,それが一番知りたいところだが,判断のためにはまだまだデータが足りないと山岡助教授は嘆く.

山岡「ほとんどこの地域は海の底であるっていうのが問題点で,データは小さな島の上にしかない」

ナレーション:マグマの動きを分析するためにはGPSや地震計のデータが頼りとなるわけだが,陸はともかく海中へのこれら計測機器の設置は,まだまだ不十分なのだという.

神津島近海海底に貫入しているというマグマの供給源については,三宅島の下で活動していたものと関連づける考えかたもある.三宅のマグマが北西に逃げて,神津近海で地震を起こし,そのぶん雄山火口下のピストンが下がっているとみれば,なるほど,両方の説明がつくような気もするが.

早川「神津島の東沖では,別のマグマが地下から上がってると考えるかたもいます.いろいろな考えがありますけども,決定打というものはないと思います」

山岡「三宅島の活動とはどうも無関係にこちらの活動が起きているようにみえる.無関係というか,きっかけはもらったんですけれども,その後の活動は,こちら(神津島)がどんどんどんどん活動は増しているけれども,三宅島は基本的には全部おさまる傾向に,全部動いている.

ナレーション:沈んでいく火山の火口と動く島々は,地底からのどんなメッセージを伝えているのか.限られたデータからそれを読み取ろうとする試みはまだ始まったばかりだ.日本の火山学が経験したことのない,何かが,地下深くでいまも進行しているのである.

田丸美寿々キャスター「こうやって見ますと,目に見えない地下の活動がある程度見えてきたような気がしますねえ」

池田キャスター「そうですね.番組がはじまってすぐに,式根島で震度4を観測する地震がありましたけれども,とにかくああやってマグマがこれからも上がって来つづけるかどうか,そこが鍵なんですけどね.実験では,あの赤いインクが,こう上に噴き出すところまで見てもらいましたけども,実際にはマグマはいま深さ3kmというところにあって,いまその海底噴火,マグマが顔を出すことを心配する必要はない.

それから,三宅島の火口が沈むシステム,これは気象庁でも,わからない.で終息の方向に向かっていると発表はしているんですけれども十分な警戒をなお続けて行くのがいま一番大切なことだと思います」

田丸キャスター「もうひとつ気掛りなのが,この,伊豆諸島の状況が巨大地震に影響するんではないかということなんですけどもねえ」

池田キャスター「そうですね.西に東海地震,北に南関東直下地震の区域があります.ただまあ,関係機関は相次いで影響は認められていないとはっきり結論づけていますね.この機会に備えをするのはいいことなんですけれども.とくに東海地震の地域は日本で一番データが豊富です.そこで今回の影響を調べると,潮の満ち干き程度しか数値の変化か出ていないということなんですね.むしろいまは伊豆諸島の限られたところでマグマが動いている.それをきちんと見ていくことが大事ですし,それからいま伊豆諸島で雨が降ってます.その目の前に迫った泥流の危険,こういったことをきちんと見ていくのが大事なのですね.」 08131734jnn