ハワイ・ビショップ博物館における展示および学習プログラム −火山関係を中心に−

群馬県立自然史博物館 野村正弘

1. はじめに

 オアフ島ホノルル市にあるビショップ博物館は、ハワイと太平洋諸島ポリネシア全域の文化に関する美術工芸品、文献、写真など、その数は200万点を超えるまでに達し、世界的にも価値の高い貴重なコレクションを有する館である。一般には文化を中心とした博物館と理解されていますが、自然科学の分野でも大変な実績を誇る博物館である。「太平洋のスミソニアン博物館」とも呼ばれるくらい、世界中から火山学、地質学、海洋学などの著名な学者が、多数集まって研究を続けている。
 今回は、2005年11月にオープンしたサイエンス・アドベンチャー・センター(下図)における火山関係の展示および学習プログラムを中心に視察したので報告する。



2. 展  示



マグマの側方移動および噴火の体験型実験装置
展示前面に配置されたポンプレバーを何回も押し込むと、マグマが側方へ移動し始め、地表に噴出する。レバーを押す回数や強さで移動量・移動形態も変わるようである。こどもたちが競うようにして、やっていた。残念ながら、展示物の意図を理解してやっていたとはあまり考えられない。



噴火現象のグラフィック
大型の素晴らしい写真が壁面に展示してある。その下の手すりには、解説や小さなイラストを配して情報を補っている。大型の写真は鮮明で迫力があり、展示効果も多きように考えられるが、ほとんど見ている人はいない。



火山体形成の体験型実験装置
台に配されたレバーを回転させると、台下から溶けた暗緑色のロウが噴出し、山体を形成していく。レバーの回転速度で噴出量がコントロールできるので、複雑な山体を作成することができる。人気の展示物とのことではあるが、1回終わったあと係員が2名で清掃しており、メンテナンスの大変な装置である。



映像と実物資料を組み合わせた溶岩の展示
箱形の展示ケース内奥にモニターがあり、火山噴火の様子を映し出している。その手前に実物の噴出物があり、噴火形態と噴出物形態が対応するように展示されている。簡単な工夫ではあるが、理解促進に役立つであろう。



メカとPCを組み合わせた地形解説装置
「Ocean floor interactive」という。左右スライド式の液晶モニター(背面にセンサー付)を、観覧者が動かして、ある島のところにくると説明が自動で始まる。3D-CGを駆使した画面はきれいで、説明もわかりやすい。自分で選択できるという点がこどもたちにも受けているようで、一時は取り合いになるほど人気であった。

3. オブジェ等環境設定

 

 一般の来館者にとって、展示空間の雰囲気づくりは、館の評価にも直結するほどの大きな意味を持つ。火山体をイメージした展示空間兼オブジェは、この館のシンボルとして十分な存在感を持っている。その内部も、火道も作り込み、赤色の照明をたようするなど、火山を強く意識させる演出がなされている。しかし、やや懲りすぎの感もあり、展示物自身が見づらいものもあった。



 正面玄関入って右正面に「Lava rock slabs」がある。ラバロック・スラブスはハワイで見られる5タイプの溶岩の模型で、壁面が構成されている。これも良い出来で、空間演出には十分な役目を果たしているが、見ている人はほとんどいなかった。



4. サイエンスショー

 

「Hot Spot Theater」という劇場型のスペースで、毎日1時間おきに溶岩を実際に溶かす実験を間近に見ることができる。溶岩を溶かしている間は、溶岩標本を観覧者に手渡して解説したり、噴火メカニズムや溶岩の性質の違いなどに関する説明を行ったり、ソーダ水を使って噴火の模擬実験を行ったりしている。日本語通訳付きの回もある。
 観覧者の中から実験補助者を選んだり、テンポの良いしゃべりで観覧者を引っ張ったりと、飽きさせない工夫が随所に見られる。しかし、なぜ溶岩を溶かすのか、冷えたものはどうなるのかなど、説明不足の部分がいくつか認められた。

5. まとめ

 全体的に楽しみながら学ぶための工夫が良くされており、日本の博物館も学ぶべき部分が多くある。特にサイエンス・アドベンチャー・センターは、展示物に費用がかかっており、大手企業の協賛を得ていることが成功の1つである。成功した企業や投資家が、利益を社会に還元するというアメリカの良き伝統がここでも見られる。
 Hot Spot Theaterで英語の回と日本語の回を見たが、観覧者の意識が大きく異なることもわかった。アメリカ人は、ショーを手伝ってくれる人を募集すると我先にと多数の希望者がでるが、日本人の場合は皆無である。その理由は、奥ゆかしさを是とする国民性であるというだけではないであろう。常に誰かに教えてもらうというという受動的体験がそうしているとも考えられる。
ともあれ、学習者の体験的な情緒に訴える、つまり「展示の中に観客を巻き込む」ことが必要である。しかし、アメリカと同じやり方が日本の博物館に適しているとは限らない。日本流のやり方を模索する必要がある。
 博物館展示を否定するものではないが、“実物”・“現場”にはやはりかなわない。展示物の中には本物の溶岩などもあった。しかし、握り拳より大きい程度の実物がどれだけの臨場感を演出してくれるかといえば、ほぼゼロである。火山の展示に関していえば、現場を見てきた後余韻があるうちに復習として見学すると、教育的効果が高いと考えられる。
 2005年11月にオープンしたサイエンス・アドベンチャー・センターは、まだ全館オープンではないという。次期オープンでどのような展示および教育プログラムが付け加わるか楽しみである。

参考
サイエンス・アドベンチャー・センターの紹介 
ビショップ博物館の公式ページ(日本語) 

2006年8月23日