中学理科の火山学習プログラム

 

宮永忠幸 

 

教科教育専攻・理科教育専修 04501254

太田市立旭中学校

 

 

概要

学習指導要領が改訂されて指導内容の弾力的な扱いが許されるようになったにもかかわらず,積極的な見直しがなかなか実現しない現状がある。大部分の日本国民にとって、中学1年での火山学習が火山知識を体系的に獲得する最後の機会になっているから,いまの学習内容をすっかり見直す必要がある。こういった問題意識の下に、火山や噴火に関する事物・現象を正しく理解し,さらに,人間社会とどう関わっているか,自分が火山にどう対峙していくかを学ぶことができる火山学習プログラムを作成した。

 火山学習プログラムは9時間の授業計画と、そこで使う教材からなる。中学1年生でも火山や噴火などの現象を感覚的に理解できるよう,映像資料・モデル実験・ウェブ教材を取り入れた。また,中学校で授業実践を行い,現場での活用に無理がなく,効果的に楽しい授業ができるよう改良したものである。

 科学的視点だけでなく社会的視点にも立ってつくられたこの火山学習プログラムは,学校現場で実用 可能な新しいタイプの学習プログラムである。

【キーワード】 中学 火山学習

 

 

 

はじめに

 20049月、浅間山が噴火した。この噴火に際し,気象庁は火山活動レベルを3とし,周辺市町村は4km以内を警戒区域として立入を禁止した。しかし,4km以内に位置しながら開館している施設を訪れて落下した火山礫を見学する観光客や,「灰が目に入る」と言いながら降灰中にテニスをする観光客がいるという報告があった(まえちゃんねっと火山情報掲示板)。これらの実態を学校教育の見地から捉えると,中学校での火山学習が果たすべき役割とその学習内容を抜本的に検討する必要があると考えられる。

 

1.研究の動機

(1)義務教育における火山学習の実態

学習指導要領(文部科学省,平成10年)によると,義務教育における火山の学習は,小学6年と中学1年・3年で行うことになっている。ただし教科書においては,中学3年「自然と人間生活」は災害についての調べ学習であり,第一分野の「科学技術と人間生活と」の 選択扱いとなっている(「新しい科学2分野・教師用指導書」東京書籍)。表1は,学習指導要領から内容と扱いを抜き出して整理したものである。火山噴火そのものの学習は中学1年の「大地の変化」でのみで行われる。

 

平成1512月、学習指導要領が一部改正されて,指導要領に示された範囲を超えた学習が認められた(文部科学事務次官による平成151226日通知)。にもかかわらず学校現場では,相変わらず教科書会社の提案した指導計画を元に学習カリキュラムを作成しているというのが実態である。また,発展的な学習内容として教科書会社が提供した資料に,火山噴火を取り上げた部分はない(東京書籍「教科書プラスシート-発展的な学習-」平成174月発行)。 地学を専攻した理科教員は現場では少数だから,火山噴火という現象を発展的に教えられる状況にはない。

表1 学習指導要領における,火山学習の内容と取り扱い

校種

小学校

中学校

学年

第6学年

第1学年

第3学年

単元

地球と宇宙

大地の変化

自然と人間

 

 

 

 

   土地は,礫,砂,粘土,火山灰及び岩石からできており,層をつくって広がっているものがあること。
  地層は,流れる水の働きや火山の噴火によってでき,化石が含まれているものがあること。
  土地は,火山の噴火によって変化すること。
  土地は,地震によって変化すること。

    火山と地震

 ()  火山の形,活動の様子及びその噴出物を調べ,それらを地下のマグマの性質と関連付けてとらえるとともに,火山岩と深成岩の観察を行い,それらの組織の違いを成因と関連付けてとらえること。

  自然と人間

 ()  自然がもたらす恩恵や災害について調べ,これらを多面的,総合的にとらえて,自然と人間のかかわり方について考察すること。

 

 

 

  アで扱う岩石は,礫岩,砂岩及び泥岩のみとすること。
  化石は地層が水の作用でできたことを示す程度にとどめること。
  ウ,エについては,児童がウ又はエのいずれかを選択して調べるようにすること。
  エについては,地震の原因については触れないこと。

  イの()の「火山」については,代表的なものを二つ又は三つ取り上げること。「マグマの性質」については,粘性を中心に取り上げ,化学組成は扱わないこと。「火山岩」及び「深成岩」については,それぞれ1種類を扱うものとし,代表的な造岩鉱物にも触れること。

  イの()については,記録や資料を基に調べること。「災害」については,地域において過去に地震,火山,津波,台風,洪水などの災害があった場合には,その災害について調べること。

 

(2)生徒にとっての火山学習

高等学校では,地学Tでプレートと関係して火山や地震を捉える授業があるが,教育課程の編成上,地学の授業を開設していない学校がほとんどであり,開設していている学校でも選択制になっているなど,高校で火山について学習する生徒はほんの一握りであるというのがわが国の実態である。

したがって,中学1年での火山の学習がほとんどの日本人にとって最後の火山学習の機会となる。火山に関する日本国民の常識は、中学1年での学習で決まるといっても過言ではない。

 

 以上の2点から,中学1年の火山学習の内容を見直して,火山と自分の関わりを深く考えることができる火山学習プログラムを作成することには意義があると考えた。

 

2.火山学習プログラム作成の方針

次の方針にもとづいて火山学習プログラムを作成した。

(1)現場で授業実践が容易にできるように,指導計画を提示するだけでなく、使う教材も提供する。

 指導計画には,「時数」「テーマ」「指導内容」「教材・コンテンツ」を示し,授業者が学習プログラムの全体構成を把握しやすいようにする。

(2)時数をやみくもに増やして他の単元の授業計画を圧迫することがないようにする。

 検定済教科書「新しい科学」(東京書籍)の指導計画は、「大地の変化」に1723時間を当てている。そのうち火山の学習をする第1章には4時間が配当されている(表2)。本プログラムでは、これに発展学習分から5時間を加えて合計9時間で火山の学習をする。

 

表2 中学1年 2分野 「大地の変化」の単元構成(東京書籍「新しい科学」による)

テ ー マ

内  容

配当時間

1

火をふく大地

火山噴火 火成岩

4時間

2

けずられる大地

地層 堆積岩 化石

7時間

3

ゆれる大地

地震

5時間

 

 

(3)火山噴火の特徴がよくわかる内容にする。

 本プログラムで教えようとする内容は,火山と噴火で実際に見られる事物・現象をもとに構成する。それらの事物・現象をどのように捉えれば良いかを示し,火山と噴火に対する適切な概念を構築することができるようにする。

(4)人間生活という視点からも火山の理解を深められるようにする。

 火山の噴火や火山で見られる地層・地形などを科学的に理解するだけでなく,自分自身がそれにどう対峙するか,人間生活や社会と火山と噴火がどのように関わっているかという視点を持たせる。そこから,正しい理解のもとに自然と関わりながら生きていこうとする態度を育てたい。

(5)事物・現象を感覚的に理解できるようにする。

 教室での授業では,いろいろな制約を受けながらの学習活動になる。たとえば、毎時間現地で学習することは困難である。そうした制約の中では、火山弾などの実物とともに、映像資料・モデル実験・ウェブ教材を用いることが効果的である。

(6)浅間山2004年噴火を取り上げる。

 遠くの有名な火山や昔の大きな噴火だけでなく、地域の火山や最近の噴火を取り上げることも重要である。その例として浅間山2004年噴火を取り上げて、地域教材をつくるときのモデルになるように意図した。

○火山噴火とは(マグマの噴出,噴出物,空振)

○噴出物が高温であること

○噴出物の大きさと飛び方

○しばらくの間活動が続くこと(繰り返す噴火,火口の様子,火映)

○過去の噴火史

同時に,噴火の仕組みや空振をモデル実験で説明することにした。

 

3.火山学習プログラム指導計画

 先にあげた方針に基づいて作成した指導計画を表3に示した。

「時数」‥‥本プログラムの中の何時間目にあたるかを表す数字。「1時間」は,中学校で運用されている50分を単位とする。

「テーマ」‥‥その回の授業で取り上げる主な事物・現象を見出し的に表したもの。

「教えたい内容」‥‥その回の授業の中で,生徒に教えたい具体的な事柄。

「教材・コンテンツ」‥‥その回の授業で用いる教材やコンテンツ。

 

表3 火山学習プログラム指導計画 (全9時間予定)

テーマ

教えたい内容

教材

1

火山噴火とは

○噴火とは,マグマが地表に出てくる現象

PP「小・中学生のための浅間噴火2004」○エアバズーカ○コーラ噴火○火砕流動画

○マグマが地表に噴火すると,溶岩か火山灰になる。

2

火山噴出物と

マグマ

○噴出物からマグマ中の鉱物結晶や揮発性成分の様子がわかる。

○火山灰○火山礫○パン皮火山弾○軽石○カルメ焼き演示実験

3

火山の形,溶岩の色,噴火の様子とマグマ

○噴出するマグマの粘りけの違いで火山の形が違う。溶岩ドームと溶岩流    

○弁当パック火山模型○カシミール3D

4

○噴火の様子は,マグマの性質や揮発性成分の振る舞いに関係がある。

○噴火動画・溶岩の写真○小麦粉火山噴火モデル

5

火山がつくる地形・地層と

人間生活

○火砕流には勝てない。

○火砕流動画

○カルデラは大量のマグマが火砕流となってあふれ出したあと,地表が陥没してできた。

WEB紙芝居(阿蘇山)○カシミール3D

○火山はくずれやすい。

○山体崩壊動画○WEB紙芝居(浅間山)

○火山がつくった土地の上に人間の暮らしがある。

PP「火山がつくる土地と人間生活」○浅間山ぬりえ地質図

6

火成岩

○花こう岩は,マグマが地下でそのままゆっくり冷えてできた。(等粒状組織)

○岩石標本○岩石薄片

○安山岩は,マグマが噴出したため急に冷えてできた。(斑状組織)石基の部分はガラス。                

7

火成岩と鉱物

○火成岩の色は鉱物の種類と量でおおむね決まる

○火山灰中の鉱物観察○岩石薄片の顕微鏡像○鉱物写真

8

火山の

災害と恵み

○小さな噴火はしょっちゅう起こるが,大きな噴火はめったに起こらない。

PP「火山の災害と恵み」

○NHK「10minBox

○生命に危険がおよぶ火山災害が起こった地域(早川,1993

○ハザードマップ

○火山はふだんを眠って過ごす。

○いったん噴火を始めると,それがいつまで続くか,どこまで大きく発展するか予想するのは難しい。

9

火山について調べよう

○火山についての情報を,自分で得ることができる。

○インターネットによる調べ学習○ポータルサイト「火山の教室」