火山小説「死都日本」シンポジウム -破局噴火のリスクと日本社会- に参加して

新井雅之(群馬県高崎市立佐野小学校)

 

 5月25日(日)に講談社ホールにて,火山小説「死都日本」シンポジウム -破局噴火のリスクと日本社会- が行われました.シンポジウムの内容は,火山小説「死都日本」を題材に破局噴火のリスクと日本社会について話し合うものでした. 

 参加者は300人ほどで,発表者は火山学者を中心に考古学や心理学,マスコミ,気象庁,内閣府防災担当など,各界第一線の方々でした.また,作者のコメントやサイン会も行われました.

 この火山小説「死都日本」は実際の現象をかなり忠実に表現しており,火山についてはもちろん,火山災害について考える際にも有効な題材となる小説です.520ページと,電話帳より厚い本ですが,一度読み始めれば一気に読み上げられるほど,うまく書き上げられています.詳しい書評が早川先生のウェブページにあります.また,シンポジウムの速報も電子掲示板で公開されています.

 このシンポジウムの画期的な点は,破局噴火(大規模火砕流噴火を意味する作者の造語)について,社会との関係をテーマにしたことです.さらに「小説」をもとに,学会の場ではなく,一般の人を交えたシンポジウムという形で各界の第一線の方々によっておこなわれたことが重要です.

 まず,テーマがすばらしい理由は「火山学だけでは災害は防げない」という言葉に集約できると思います.1985年のアルメロの被災が良い例ですが,火山学の未熟さと社会への伝達の難しさが火山災害を自然災害から人災へと変えています.

 私は今年2月に雲仙に行き,復興の様子を見てきました.その後,読んだ本から,火山噴火時の社会への対応が難しいことが良く分かりました.雲仙や有珠の噴火と社会関係について書かれた本はたくさんあります.これらを読むと,火山学だけではどうにもならない問題があることを知らせてくれます.最近翻訳出版された「火山に魅せられた男たち」(ディック・トンプソン著 山越幸江訳 地人書館)はアメリカの例ですが,社会だけでなく,火山学者間の複雑な関係も知ることができるお勧めの本です.

 火山の情報について,出す側と受ける側の間で温度差があることと,行政のシステムが問題であると考えられます.現在の科学力では火山の噴火を完全に予知することは不可能です.そのため,情報を発信する側,すなわち火山学者は不確定な情報を出さざるをえません.そこで,情報を受け取る側や運営する側が大切になってきます.

 シンポジウムを聞いていて感じたことですが,現在は分からないことは分からないとして,わかった正確な情報を積極的に出していく方向のようです.こうなると,受ける側のスキルが重要となってきます.受ける側に情報を分析するだけの十分な知識がないといけないからです.行政に災害対策を丸投げしている社会の意識改革を行う必要や,行政側もただお金や物を供給するだけでなく,災害が起きている最中や,起きたあとの対応(住民コミュニティーの維持など)の重要性を認識する必要があると思います.

 また,破局噴火という,滅多に起きないがいったん起きてしまったら避けることができない災害をテーマにすることで,この種の災害に対する社会のあり方を考えなければならいことを教えてくれました.

 破局噴火ではすべての国民,いや,世界中の人類が被災者となります.そのため,「被災者救援」というその場しのぎの方法では対応できないことを気づかせてくれました.明日にも起きるかもわからない災害と違い,この種の災害は,理想論を交わすことができる利点を持ちます.

 小説をテーマに一般の人々とシンポジウムを行ったことの良さは「普及」のひとことに集約されると思います.

 有珠の2000年噴火と(小説中での)宮崎県民の避難がうまくいった理由は,住民が火山噴火について知識を持っていたからです.火山学者以外の者が知識を手に入れる方法はいくつかありますが,その中でも,小説やシンポジウムの果たす役割は大きいと考えられます.

 小説は取り付きやすく,シンポジウムの参加者は一般の人です.また,テレビ局などのマスコミも取材にきていました,新聞やラジオ,雑誌でも取り上げられており,話題性から一般の人に対して十分な普及効果がありました.次回は九州で開催のようですが,今後も同じような普及に根ざしたシンポジウム等の企画を続けることは意義深いと思います.

 またシンポジウムでは「火山学者はひとり一冊本を出す」の提案や小説の映画化など,いかにして裾野を広げるかの話し合いがなされました.

 私はなかでも林さんの考えに賛同しており,小中学校での実践は重要であると考えています.小中学校ではすべての児童生徒が学習するからです.また,この年代は,火山等の現象に対して興味をもってとり組むからです.高校では地学分野を履修することがなかなかできません.

 普及の方法として大学の先生が外部講師として関わることは,大学の先生自身のスキルアップには良いことだと思いますが,少数回の直接指導だけでは焼け石に水です.これでは,十分な普及には結びつかないと思います.

 大切なことは恒常的な指導法が確立されることです.小中学校の教員が専門的知識をつけることが一番だと思いますが,すくなくとも小学校の教員にとっては,すべてについて専門家になるのは無理があります.むしろ,専門的な知識を持った人が小学生の目線で教材を開発し,それを小学校教員が利用することで,火山についての知識が広がっていくと考えます.

 また,現場の教員にとって地学の分野は難しい分野です.だれでも使える指導方法の解説書を作ることで,すべての教員が容易に指導できるようになると思います.火山災害を軽減するためには,新しい教材の開発や指導法の体系を作り上げることが必要であると考えます.

 

2003年6月3日