弁当パック立体模型の作成とそれを使った授業実践

 

 

堀 真季子

200432

 

 

 

1.はじめに

 

T 「弁当パック模型」の魅力

 2003年7月26日に、東京の北の丸公園内にある科学技術館で催されている「青少年のための科学の祭典 2003年全国大会」を見学した。そこに出展していた「弁当パックで立体模型2」というコーナーでこの弁当パック模型を知ることとなった。

 弁当パック模型は、その名のとおり弁当パックで、山や海岸などの地形を表現できるというものである。身近で安価な弁当パックのふたを使い、簡単に、優れた立体模型が作れるこの「弁当パック模型」は素晴らしく、自分でも作ってみたい、作らせてみたいと思い、卒論のテーマとすることにした。

 

U 山口県防府市立華西中学校の松村浩一先生による先行研究

 先述の科学の祭典に出展されていたのが松村浩一先生である。松村先生はこの「弁当パック模型」の原案者であり、「第二回啓林館教育実践賞」を受賞されている。

 松村先生の原案をもとに、今回は「弁当パック模型」の改良とその授業実践について報告する。

 

 

2.手段

 

T 弁当パック模型の作り方

 

準備するもの

はさみ・セロハンテープ・蛍光ペン(3〜5色)または色鉛筆・サインペン黒・サインペン青・地形図もしくはカシバードで作る白地図・お弁当パックのふた(5〜10枚)・文庫本(2cm程度の厚さのもの)

 

〜作る前に〜

 作りたい模型の地図を用意する必要がある。山の模型を作る場合、2万5000分の1の地形図を少し拡大コピーして使うのがよいと思う。しかし、地形図は情報量が多いので、ほしい線だけをピックアップするのが難しい。そこで、カシミールというパソコンソフトを使えばとても簡単に、欲しい場所の欲しい等高線だけをピックアップすることができる。また、縮尺もある程度は変えることができるので、子どもが模型作りを行う場合こちらを使用するのが望ましい。今回はカシミールの白地図をもとにして作った、オリジナルの白地図を使うことにする。

 

作り方

1.地図の等高線を蛍光ペンでなぞる。

このとき、高い方あるいは低い方からなぞっていくと決めて、例えば3色ならば(ピンク→黄色→青→ピンク→黄色→青)と順番になぞっていくと、ふたに等高線を書き入れていく時にやりやすい。子どもを対象とするときには、色鉛筆を使い「同じ数字は同じ色で、違う数字は違う色で」と、一つの高さに対して1色にするほうがわかりやすい。また、ここでの作業は大雑把でかまわない。

 

2.地図をふたのうらに貼り付け、ふたに低い方から等高線を記入する。

(ふた1枚につき1種類の等高線。)このとき、ふたの下に文庫本を入れると、台となって書きやすくなる。

 

3.地図を貼ったふたの上に新しいふたをのせ、次に低い等高線を記入する。

書き終えたら、また地図を貼ったふたの上に新しいふたをのせ、この作業を繰り返す。

 

4.全部重ね、動かないように横をセロハンテープで止めたらたら出来上がり。

好みにより、完成した模型に地名を入れたり、湖を青く塗ったりする。

 

※お弁当パックのフタの購入先

グント−前橋三俣店  住所:群馬県前橋市三俣町2−2−2

           п@:027−230−1411

※使用した弁当パック

TR−36F  50枚 390円   600枚 4500円

サイズ 17cm×17cm

 

 

 U カシミール3Dについて

 カシミール3Dとは、数値地図を利用して山やその風景を楽しめるというパソコンのソフトである。5万分の1地形図・20万分の1地形図や50mメッシュの標高のデータを使い、地形を色々なかたちで表現できる。

 弁当パックのふたを使った立体模型をつくるにあたり、このソフトは大いに活用できる。使用した機能は主に二つである。

@     山の立体画像を作る

A     等高線画像をつくる

 

@は三次元的に山を表現した「仮想写真」(例1参照)であり、その画像を作成することをカシミールでは「撮影」と呼んでいる。

この機能は地図上にあるポイントを設定

し、そこから写真を撮る、という形で作

成される。写真をとる前、どのポジショ

ンで撮影したらよいかを決める青写真を

引くために「カシバード」というものが

起動される。それを動かし、欲しい場所

の画像を作成するのである。             例1 「あさま」

 「仮想写真」は撮影する場所・目標はもちろんのこと、対地高度・撮影範囲・仰角・カメラ・背景などを自由に選ぶことができる。

 この写真を撮ることによって、自分の作った立体模型と実際の山を比較することができる。また、平面の地図では解かりにくい箇所や想像し難い箇所も、特徴的に表現できる。

 

Aは等高線だけを描いた地図である。カシミールを立ち上げると画面右側に「白地図」というアイコンがある。そのアイコンをクリックすると、カシミールを立ち上げた場所の等高線だけが画かれた地図が表示される。(例2参照)

高度の数値は残念ながら表示されないが(例2はペ

イントで数値を入れ、加工したもの)等高線の間隔

は1・2・5・10・20・25・50・100・

200・250・500・1000mの間隔から自

由に選ぶことができる。また地図のズームもできる。

20万分の一の地図の4・2・1・1/2・1/4

とカシミールでは表示されており、5段階の縮尺の

地図を作ることができる。

 この地図は、立体模型の元の地図として活用する

ことができる。山の大きさによってズームを変える     例2 「あさま」

ことができ、山の高さによって等高線の間隔を選択できるのは、よりよい立体模型を作るのに大変便利である

 

 

3.指導案

 

 T 中学校1年生を対象とした1時間の授業

 

 (2004年2月3日 高崎市立高南中学校1年生選択理科の授業の場合)

1 やること 先週の早川先生のお話に関連して、「山」の立体模型をつくってみる。 

2 準 備  弁当パックのふた・黒ペン・赤ペン・青ペン・セロハンテープ・鉛筆削り・はさみ・文庫本・模型のもとになる地図(あさま・ふじ・みやけ)・ティッシュペーパー・アルコール・見本の模型

  生徒に用意してもらうもの

       色鉛筆・はさみ・文庫本

3 展 開

        内  容

      子どもの活動

 時間

1.自己紹介&説明

「川路先生の後輩で、今は早川研究室に所属している群馬大学の学生です。」

     今日は先週の早川先生の話をふまえ

て、弁当パックのふたを使って立体模型をつくることを説明する。

・つくり方はあらかじめ模造紙にかいておく。 その説明をしながら見本をみせて、完成のイメージがわきやすいようにする。

 

2.実際につくってみる

・「あさま・みやけ・ふじ」の中から1つを選び、手順どおりに作業をするように指示する。

・わからない子どもや間違ってしまった子どもの手助けをする。

     サインペンで書き損じた子どもに対してはアルコールワッテで線を消す。

 

 

3.まとめ

・3つの山の特徴や歴史を書いたプリントを配り、自分のつくった山の特徴や、つくった感想を書いてもらう。

 

 

・道具を準備して話を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

・3つの山の中から1つ選ぶ。

・作業をはじめる。

 

 

 

 

・できあがった子どもはあまった時間で2個目をつくる。

 

 

 

 

・感想を書く。

 

 

 

 

10分

 

 

 

 

 

 

 

 

40分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分

 

 

 

 U 小学校6年生を対象とした2時間の授業

 

(2004年2月25日 前橋市立桃瀬小学校6年生理科の授業の場合)

1 やること 「山」の立体模型をつくってみる

2 準 備  弁当パックのふた・黒ペン・赤ペン・青ペン・セロハンテープ・鉛筆削り・はさみ・文庫本・模型のもとになる地図(あさま・あかぎ・はるな・みやけ)・ティッシュペーパー・アルコール・見本の模型・見本の立体写真

  生徒に用意してもらうもの

       色鉛筆・はさみ・文庫本・セロハンテープ

3 展 開

        内  容

      子どもの活動

 時間

1.自己紹介&説明

     以前の早川先生の出張授業の内容を思い出しつつ、今日は「弁当パック模型」を作ることを説明する。

     今日作る模型の見本とその山の立体写真をみせながら、その山はどこにあるどのような山なのか簡単に説明する。

     作り方を説明する。つくり方はあらかじめ模造紙にかいておく。

 その説明をしながら見本をみせて、完成のイメージがわきやすいようにする。

 

 

2.実際につくってみる

・「あさま・あかぎ・はるな・みやけ」の中から1つを選び、手順どおりに作業をするように指示する。

・わからない子どもや間違ってしまった子どもの手助けをする。

 ※サインペンで書き損じた子どもに対してはアルコールワッテで線を消す。

     完成した作品を見せてもらい、作業の終わった子どもに対しては、地名を入れたり湖をかいたりして、模型に工夫をすることを勧める。

 

3.まとめ

     自分のつくった模型の、山の特徴やつくった感想を発表してもらう。

     その山の特徴や、尾根・谷の説明、また等高線の意味などについて説明し、まとめる。

 

4.片付け

     使った道具やごみなどを片付けるように指示する。

     弁当パック模型の横にセロハンテープを貼って、模型がばらばらにならないように指示する。

 

 

 

 

 

 

 

 

・道具を準備して話を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・4つの山の中から1つ選ぶ。

・作業をはじめる。

 

・できあがった子どもはあまった時間で2個目をつくる。

 

※トイレ休憩をはさんでもよい

 

 

 

 

 

 

・意見・感想を発表する

 

 

 

 

 

・片付ける

 

 

 

 

15分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間

 

 

 

 

 

 

 

 

15分

 

 

 

 

 

 

5分

 

 

4.授業実践記録

 

 T ららん藤岡での「遊びの広場」

 

2004年1月25日 (日) 10:00〜16:00

 ららん藤岡にて 『遊びの広場〜サルでもわかる科学教室〜』

 

 群馬大学教育学部奥沢研究室主催の、学生を対象とした科学教室に参加。スライム作りやシャボン玉、液体窒素を使った実験などと一緒に「お弁当パックのふたを使った山の立体模型をつくろう」というブースを設けた。野外での作業になるため、長机と椅子を用意し、長机の長いほうの辺をあわせて2つ並べ、その一方の辺側に3脚のいすを並べて小学生を座らせるというスタイルで行った。色鉛筆は鉛筆立てに入れておき、セロテープはある程度の長さに切って机に貼り付けておく、また、色を塗った見本の白地図を机の見やすい位置に貼っておく、などの手立てをした。

 椅子に3人しか座れないこと、また作業に時間がかかるため昼休み以外は常に子どもが作業をしているという状況だった。対象年齢を小学校高学年〜中学生としていたのだが、実際にきたのは小学校低学年〜中学年の小学生がほとんどであった。初めは、こんな小さい子にこのような難しい作業ができるのか?」と不安に思ったが、少し丁寧に作り方の説明をしてあげれば、比較的スムーズに作業を行うことができる、ということがわかった。

 地図は、カシミールで作った白地図をもとに、わかりやすく手を加えたものを使用し、カシミールを使ってつくった3D写真とともにB4の紙に印刷した。小学生は立体模型そのものに対しては興味を示すが、その山を描いている3D写真にはあまり興味を示さなかった。

 富士山・三宅島・浅間山のなかで、小学生に1番人気があったのは浅間山であった。これは、浅間山は複雑な形をしていて、なおかつ山っぽい感じがし、また200m間隔で作ったときにある程度の高さがでて、完成時に一番「山っぽい感じ」がするからだと思われる。

 完成時には、ほとんどの子どもが「すごい!」や「ほんとに立体的に見えるね」などと言って達成感と満足感を感じていたように見えた。しかし、例えば100という数字をなぞっただけでそれが100mの等高線である、と理解している子どもは少なかったように思えた。

野外で活動を行う場合、風が強かったり気温が低かったりするとテンションが下がるので、天気も重要な要素である。

 

 

 U 高崎市立高南中学校

 

2004年2月3日 (火) 11:40〜12:30

高崎市立高南中学校にて    中学1年生選択理科の授業

 

早川研究室の卒業生である川路美沙さんが受け持っているクラスの授業を、2時間いただいて「お弁当パックのふたを使った立体模型」の授業をやらせてもらった。1週目の1時間は、早川教授による「山」の講義で、山とはどういうものかなど、地学に興味を持つようなお話があった。

2週目の授業でお弁当パックのふたを使った立体模型を、実際子どもが作るという授業を行った。はじめにどのようなものをつくるか説明し、浅間山・三宅島・富士山の中から、自分のつくる作品を一つ選ばせた。

次に、あらかじめつくり方を書いた模造紙を見せながら、つくり方を説明し実際に作業をするように指示をした。子どもは、しっかりと説明を聞いて意欲的に作業にとりこんでいたように見えた。

このときに用いた地図は、藤岡で子どもにふりむいてもらえなかった3D写真に注目してもらおうと思い、カラーで印刷した。その甲斐あって、多少は3D写真にも注目してくれたように思えた。

色えんぴつでなぞるという作業は、手の止まるこどもも少なく、あまり間違うことなく作業を行っていた。しかし、お弁当パックのふたに線を引く際は、手間どう子どもも多く、説明に改良が必要だと感じた。

等高線は引くが、その等高線が何メートルなのかと気にしている子どもは少ないように見えた。できることならば、ただの工作で終わるのではなく、その山の特徴や標高、地名などにも興味を持ち、そこから色々なことに興味関心がもてるような手立てができれば、よりよい教材として利用できると考えた。また、平面方向の縮尺、垂直方向への縮尺に興味をもてるこどもがいたら、1種類の山でいろいろな模型を作ってみるのも面白いと思った。

50分という授業の時間は、この作業を行うには少し短いので、説明を短く工夫するなどして、もう少し子どもが作業する時間をとれたらよかったのではないかと感じた。

 

V 前橋市立桃瀬小学校

 

2004年2月25日 (水) 10:45〜12:20(3・4時間目)

前橋市立桃瀬小学校にて    小学校6年生理科の授業

 

高南中学校で行った1時間の授業では子どもの作業する時間が短いと感じたため、桃瀬小学校では2時間続きの時間を頂いて、弁当パック模型を作った。

 高南中学校ではカラーの立体写真つきの白地図を渡したが、今回は立体写真は大きくプリントして説明の際に見せるだけにとどめ、白地図が4種類印刷されているものを配布した。また桃瀬小では、今まで「あさま・みやけ・ふじ」の3種類だった模型を「あさま・はるな・あかぎ・ふじ」の4種類に変更した。

 小学生が対象であることと、時間に余裕があることから、作り方の説明は丁寧にやったつもりである。ただ、もっとわかりやすく説明する必要があると感じた。

 実際作業をはじめると、みな熱心に作っていた。最初はとまどいつつも、友達と相談しあうなどして楽しそうに作っていたように見えた。

 「みやけが一番簡単です」などと言ってしまったためか、クラスの半数以上の子が「みやけ」を作っていたので、次は先入観を持たせずに自分の興味のある山を選ばせたい。

 「完成した人は見せてください」といったので、みな教卓まででてきて作品を見せてくれた。そういった子から「地名をいれてごらん」「湖を青で塗ってごらん」などとアドバイスをした。しかし、パックをかさねた段階で「こんなすごいのが出来たんだ!!」と感動させることができたらさらによかったように思う。

子どもに「2個作っていい?」と聞かれたので「パックがあまってたらいいよ」と答えた。なかには3種類の模型を作っていた子どももいた。

後で知ったのだが、小学校6年生は「等高線」という言葉を知らない。よって、等高線の概念のようなものが小学校6年生にはないと思われる。等高線の性質を理解していないと「あかぎ」と「はるな」にある湖を模型に書き込むのは難しいと思われるので、はじめに等高線とはどういうもので、どういう性質があるということを説明しておく必要があると感じた。また地図にも湖の標高を入れておくとわかりやすいと思った。

時間がありそうなので最後に発表とまとめをした。当初の予定には入ってなかったので、動揺して適当なことを言ってまとめてしまった。作った感想については発表があったが、地形の特徴などについてはあまり発表はなかった。小学生には少し難しいのかもしれない。

最後に早川先生から「尾根と谷」について説明があった。やはり実物と模型を重ねあわせる、という思考は小学生には難しいようで、理解している子どもは少数に見えた。

 

 

5.終わりに

 T 今後の課題

 「弁当パック模型」において、重要なのは、弁当パックの形状と白地図だと言うことがわかった。よって、今後はより使い勝手のよいパックを探したり、白地図を改良したりすることが必要である。

そして多くの人たちにこの「弁当パック模型」を知ってもらえたら幸いである。

 

 

6.謝辞

本論文の作成にあたり、終始適切な助言を賜り、また丁寧に指導して下さった早川由紀夫先生に感謝します。
 また、「弁当パック模型」の授業を行うために高南中学校の川路美沙先生、桃瀬小学校の井野先生、岡野先生、利根中学校の佐藤成夫先生、また群馬大学の奥沢誠先生に多大な協力をして頂きました。ここに感謝いたします。
 浦野智香子さん、安野俊明さんをはじめとする同窓生の皆さん、大学院生、後輩の方々など大学のメンバーには常に刺激的な議論を頂き、精神的にも支えられました。ありがとうございます。
 そして、本論文の趣旨を理解し快く協力して頂いた、藤岡市の小学生の皆さん・高南中の皆さん・桃瀬小の皆さん・利根中の皆さんに心から感謝します。本当にありがとうございました。