XDate: Fri, 14 Apr 2000 07:18:04 +0900
To: "Y.Ida"
From: Yukio Hayakawa
Subject: Re: 統一見解を読んで思ったこと

井田先生へ,

お忙しい中,意見を詳しくいただいて恐縮します.

今回の有珠対応は,現地の岡田先生も,東京の井田先生と小宮さんも,たいへん立派
になさっていると,私は感じています.お三人とも,わたしは尊敬しています.

そういうスタンスであってもなお,気象庁と予知連の火山危機対応を批判的な目でみ
ることが,この国で火山防災を実現するためには必要だと信じています.

ですから,私の発言は,前面にたってお仕事をなさっているお三人ほかのみなさんに
とって,ときに不快なものがあるだろうと思います.その点は,お許しいただきたい
と思っています.

さて,井田先生からいただいた説明を,よく読んで理解したつもりです.いまこのこ
とを深く議論するのは時間の使い方として適切であるとは考えられません.深い議論
は後日することにして(ぜひしたいと思っています),井田先生のご指摘のうち,い
ま私が答えるべきこと,あるいは答えられることを,短くお答えします.

At 19:53 +0900 00.4.13, Y.Ida wrote:
> 色々な点で早川さんと意見が違うのに驚きました。活動評価について意見を交わし
>ているときりがないし、今それをしている暇は私にはありません。しかし、世の中に
>誤解を与えないために、統一見解の意味について、また今回それを出すに至ったいき
>さつについては、一言言っておきたいと思います。

統一見解を出す側が考える「意味」とは別に,統一見解を受け取る側が考える「意味
」もあると思います.「統一見解の意味」といったとき,どちらの立場からの意味が
優先されるべきかは,議論を経る必要があるだろうと思います.ですから,受け取る
側の論理が出す側の論理と異なるとき,それを「誤解」というべきかどうか疑問です
.両者の話し合いが必要だろうと思います.

>
> 統一見解をまとめていく過程で、予知連の委員は、手持ちのデータから活動の状態
>や評価についてどこまで言えるかを議論します。私の経験では、その過程で多様な視
>点からデータが眺められ、各専門からの様々な知識が集められて、個人個人が最初に
>持っていたのよりかなり優れた共通認識が得られることが多い。統一見解に書かれて
>いるのは、このような共通認識です。議論しても一致しないで残る問題点も少なくな
>いのが普通ですが、時間の関係から、私はそれには余り深入りしないように会を進め
>ています。
> もちろん、この共通認識が当を得ているという保証はありません。しかし、真実に
>近づくための、かなりよい方法であるとは確信しています。

「真実に近づくための、かなりよい方法である」であるという井田先生の確信に,ほ
ぼ同意します.しかし現状がベストの方法であるとは言えない気がします.改善の余
地があると思います.

>
> 「 今回の統一見解の発表は,住民からの声に抗しきれなくなった
> 地元自治体の希望を実現するためにとられた,きわめて社会性 が強いものだったと
>言えます」と、早川さんはどんな根拠でおっしゃっているのでしょうか。私の知る限
>り、これは正しくありません。私が最初に岡田さんや他の人たちに、新しい見解を出
>すことを提案したのは、地球物理データが蓄積し、そこに何らかの傾向が認められる
>ようになったからです。新しいデータが出てきたから、それを含めて評価を見直そう
>としたわけです。評価のもつ社会的意義はもちろん認識していましたが、それが先行
>して、見解を出そうとしたわけではありません。

私が「今回の統一見解の発表は,住民からの声に抗しきれなくなった 地元自治体の
希望を実現するためにとられた,きわめて社会性 が強いものだったと言えます」と
断定したのは,いま読み返すと,たしかに強く書きすぎたと思います.反省します.
しかし,この文を書き換える必要性までは感じません.

「社会性」という語を私は使いましたが,これは評価を低めるために使用した語では
ありません.

井田先生が岡田先生たちに「新しい見解を出すことを提案」なさったこと(初めて知
りました)と,「社会的意義」の圧力発生のどちらが先だったか,私にはいま確かめ
ることができません.井田先生が,「社会的意義」の圧力発生とは独立に,自発的に
「新しい見解を出すことを提案」なさったという事実をいま理解しました.

> これに対応して、気象庁が社会的影響を考慮して、発表の形式(部会コメントにす
>るのか統一見解にするのか)や時期について、意見を述べたのは確かです。しかし、
>気象庁は情報発信の社会的責任を負っているのだから、これも当然のことではないで
>しょうか

はい,気象庁が4.12統一見解を発表したことは,社会的説明責任を全うした立派なお
仕事だったと思っています.

▼上の議論では,
1)統一見解をまとめること
2)それを社会に向けてアナウンスすること
の二者がはっきりと区別されていないので,わかりにくくなっています.
しかしきょうは,それを峻別して書き直して議論を再構成することはしないことにし
ます.

一点だけ,1)について新しいコメントをします.

かならずしも見解を統一する必要はないと私は思っています.考えられるシナリオを
すべて書きだして,それぞれのシナリオに発生確率を付す論理ツリーlogic treeの方
法のほうが優れていると私は考えています.

岩手山の論理ツリー
http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/bosai/98iwate/scenario/logic/tree.html

Eruption Hazard Assessments and Warnings
By Punongbayan,Newhall, et al.
http://pubs.usgs.gov/pinatubo/punong2/index.html
に書かれたピナツボ論理ツリー
http://pubs.usgs.gov/pinatubo/punong2/fig4.gif

そこで与える発生確率すら統一する必要がないと考えています.委員の意見分布の表
と平均値を公開するのがよいと考えています.

エコノミストの景気見通し報道に習おう
http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/opinion/econo/mist.html

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早川由紀夫