5.04(木)

▼きのうの話の続きです.
 伊達市街地は有珠山山頂から8km離れています.有珠山の噴火のためにそこで火災が発生するシナリオは,次の二つだけしか私には思いつくことができません.
 そのひとつは,高いプリニー式噴煙柱から直径10cmを超える熱い軽石が降り注いで火災が発生するケースです.このときその地域は,日中でも真っ暗になります.1メートル先に何があるかわからない状態になりますから,消火活動の遂行がそもそも不可能でしょう.この原因で伊達市街地で火災が発生しているとき,(伊達市役所のあたりは小高いから大丈夫かもしれませんが)長流川流域は火砕流(雲仙岳のそれより桁違いに大きくて破壊力が強い軽石流)に,数時間以内にのみこまれる危険を50%程度の確率で有します.火を消している場合ではありません.いそいで逃げないと死んでしまいそう.暗闇の中で逃げるのはとてもたいへんです.
 もうひとつは,雲仙岳のような火砕流(ここでは熱雲といいましょう)で焼かれる場合です.熱雲は一回で終わらず,繰り返し発生するのがふつうです.消火活動をおこなっている消防士のところへ次の熱雲が達する危険はたいへん高く,達した場合は瞬時に黒こげになります.
 焼け石が弾道軌道を描いて飛んで,山林や家屋に火災を発生させることがあります.そのときも消火活動を行う消防士に次の焼け石が当たる確率が無視できません.家屋の延焼を防ぐより,消防士の命を確保するのが多くの場合優先されるだろうと思います.弾道軌道を描いて飛ぶ焼け石は,どんなに強い噴火でも,火口から5kmまでしか達しませんから,このメカニズムによって伊達市街地で火災が発生するとは考えられません.
 消火訓練は,一般的には,有効で望ましい学習行動だといえます.しかし不適切な対応をふくんだ訓練の経験は,いざというときに適切な判断を下すための大きな障害になります.おととい伊達市で行われた消火訓練が,NHKボランティアネットが伝えたとおりだったのなら,深刻な火山危機のなかにいまある同市にとってむしろ有害でした.戦う相手の特徴と性質を正しく理解せずに訓練したところに問題がありました.(0950)