2000.3.2

東京地学協会「ハワイ島の火山噴火と氷河地形」参加者のみなさまへ

早川由紀夫(案内者)

旅行出発の3月15日が迫ってきました.私はみなさまより2日先にハワイへ飛んで,キラウエア噴火やすばる望遠鏡の見学準備をします.したがって,みなさまとはヒロ空港でお会いすることになります.

以下に,今回の旅行の注意事項と旅のヒントをスケジュール順に記します.旅の準備の参考にしてください.今回の旅行のメニューは,噴火現場に近づいたり,4200mの高所に行ったりなど,生命にかかわる危険なことを含んでいます.みなさまの安全を確保するために案内者である私が最大限の努力をしますが,最終的な安全管理は参加者のみなさま自身にお願いします.自分にとって危険だと感じたら,それ以上前進することを止めてください.添乗員が安全なところまでご案内します.

▼3月15日(水)
 成田空港を飛行機が飛び立つのは,20時ころです.約1時間後から飲み物のサービスが始まりますが,夕食が全員に行き渡るのは2時間後の22時ころになりましょう.この夕食を熱心に取ることを私は勧めません.出発前に成田空港内のレストラン(またはコンビニエンス・ストアのおにぎりなど)で夕食を済ませておくのがよいと思います.機内でサービスされるアルコールと少々のつまみを胃袋に入れ,早々にお休みになるのが賢明です.なお機内は高度2000mと同じ気圧に設定されていますから,すこしのアルコールでも酔いが回ります.お気をつけください.
 ホノルルまでの飛行時間は6時間45分.したがって,夕食を丁寧にとっていると,寝る時間がほとんどなくなります.ホノルルに着く1時間半前に,朝食がサービスされます.パンとヨーグルトと飲み物だけの簡単な食事です.これは(食べられたら)ぜひ食べてください.体が目覚めます.
 ホノルルには7時40分に着きます.日本時間の2時40分ですから,とても眠いでしょう.入国審査をすませたあと,国内線ターミナルでヒロ空港へ向かう飛行機の出発を待ちます.待合所ふきんにファーストフードのお店がありますから,おなかがすいた人はどうぞ,買って食べてください.
 ハワイの国内路線は全席自由です.ですから窓際に座りたい人は,搭乗口の前に少なくとも30分前から並ぶべきです.晴れていれば,左側に座ると,ダイヤモンドヘッドやハレアカラ火口が見えます.右側に座ると,マウナケアとマウナロアがよく見えます.ちょうど眠気がおそってくる時刻です.睡魔との戦いになりましょう.
 飛行機は,ヒロ空港に10時51分に着きます.私は,荷物返却所でみなさんをお待ちしています.当初の予定では,まずショッピングセンターにご案内しようと思っていましたが,ヒロハワイアンホテルに直行することにしました.大型バスでわずか5分です.ホテルについたら,レストランにご案内します.この日の昼食は当初予定では付いていなかったのですが,わたしがJTBに無理に頼んでつけてもらいました.だから,簡素なものです.食事が終わるころには,(準備が整っている部屋の)ルームキーがもらえると思います.
 飛行機に疲れた人はこのままホテルに居残って,どうぞ休んでください.気持ちのいい屋外プールがあります.そこで泳げば時差調整に効果がありましょう.
 ヘリコプターでキラウエアを空からみたい人は,ホテルのアクティビティー・デスクに申し込みます.私がお手伝いします.(かならずヘリコプターに乗りたくて,当日申込みでは不安な方は,すぐ私に連絡ください.日本から予約します.クレジット番号が必要です.)
 元気な人は,大型バスで50分のキラウエア火山まで予察に行きます.13時30分ころホテルを出発するつもりです.キラウエアでは,ビジターセンターとボルケーノハウスに寄ります.本や地図を買って,カルデラをちょっと見るだけです.18時にはホテルに戻るつもりです.
 今回の旅行での夕食は,ホテル内外のレストランで各自お済ませください.ショップで買って自室で食べることもできます.ホテルの部屋には冷蔵庫がありますから,ショップでビールを買ってどうぞ冷やしてください.ビールは350mlサイズ6本で5ドルが相場です.10分ほど歩けば,庶民的レストランやマクドナルドもあります.英語が不案内な方のために,この日は,添乗員と私がお手伝いします.
 時間と希望があれば,帰り道にショッピングセンターに寄って小一時間の買い出し時間をとろうと思います.ビールやワインそれからお総菜を買えば,あとはホテルの部屋でパーティーするだけです.

▼3月16日(木)
 早朝,ホテルから歩いて5分のところにあるスイサンマーケットを見学します.6時にロビーで待ち合わせしましょう.晴れていれば,山頂に白い天文ドームをたくさんもつマウナケアが,ホテルの向かいのココナッツ・アイランドから,よく見えるでしょう.
 出発は8時半頃を考えています.大型バスを使います.キラウエアカルデラを3/4周したのち,チェーン・オブ・クレーターズ・ロードを南下します.途中でいくつかのピットクレーターを訪れたあと,1970年代の溶岩原でパホイホイとアアのちがいを観察します.最近の噴火で降ったペレーの毛とレティキュライトも同じ場所にあります.ここは国立公園ですから,他人の目があるところでこれら採集することは,しないでください.
 昼食はピクニックランチを用意します.午後は,太平洋に流れ込む高温溶岩をめざします.2月末に行ってきた人の話によると,道路終点から徒歩35分だったとのことです.ゆっくり歩いても,60分あれば到着できると思われます.履き物はスニーカーでかまいません.私は,堅い底が張ってある皮の軽登山靴で行きますが,みなさんは履き慣れた靴の方がいいでしょう.
 バスは道路終点に待たせますから,体調がすぐれないかたは車内にとどまることができます.途中まで行って引き返した人も車内で休めます.ここには仮設トイレがあります.
 晴れていても,突然シャワーがやってくることがありますから,雨合羽が必携です.シャワーのときはしばしば突風が伴います.傘だけではびしょぬれになることがあります.
 高温溶岩が太平洋に流れ込んでいるところへ行くのは,合衆国において合法です.「この先,危険」という表示はありますが,立入禁止とは書いてありません.そのかわり「たくさんの水と懐中電灯を持っていけ」と書いてあります.晴天だった場合,日陰がないので脱水症状になる危険があります.日が暮れたあとは,電灯がいっさいないので真っ暗になります.だから懐中電灯が必要だと書いてあるわけです.わたしたちは日没までに十分な余裕を持ってバスに帰るつもりですが,懐中電灯をもっていると心強いでしょう.水と食料を持っていくために,小さなリュックサックが必要です.水は,ペットボトルに入ったものをショップで買ってください.
 現場での安全確保に私は最大限注意を払いますが,万全は保証できません.自分の安全は自分で確保してください.私より前に行かなければ,たぶん安全でしょう.
 キラウエアの高温溶岩に接近するときの危険は,5つあります.
1)太平洋への高温溶岩の流れ込みは,ふつう穏やかですが,ときに爆発を起こすことがあります.爆発によって飛散した溶岩の破片に触れると大やけどをします.当たり所が悪ければ,衝撃によって即死します.
2)溶岩が太平洋に流れ込んで作った新しいベンチは不安定です.数ヶ月に一度,運動場ほどの広さのベンチが太平洋に沈み込みます.ベンチが沈み込むときその上にいた場合,海に投げ出されます.1983年1月に始まった今回のキラウエア噴火において,男性がひとりこれによって亡くなっています.
3)高温溶岩が流れる地下のトンネルの上を歩きます.よっぽと運が悪いと,これを踏み抜きます.いままで踏み抜いて死んだ人はいませんが,注意が必要です.白い昇華物が付着した地表は,地下に溶岩トンネルがある証拠ですから,そこは細心の注意を払って通り抜けましょう.
4)硫黄を含んだ火山ガスが鼻につきます.ぜんそくを患っている方は,呼吸不全によって死に至ることがあります.(ぜんそくをお持ちの方がいらしたら,申告してください)
5)転倒して手足を切ることがあります.長袖・長ズボンそして軍手で防備してください.ただし私は半ズボンで行くでしょうが.
 18時までにはホテルに戻りたいと思います.

▼3月17日(金)
 8時半出発.14人のり四輪駆動のミニバス2台に分乗して,マウナロアとマウナケアの鞍部を行くサドルロードに向かいます.まずマウナロア中腹の気象観測所(3300m)まで登ります.いったんサドルロードまで下り,今度はマウナケアを登ります.ハレポハク(2800m)にあるオニヅカセンターで,ピクニックランチの昼食をすませます.ここにはトイレがあります.
 ここより上は,ほとんど常に快晴で紫外線が強い.帽子・サングラス・日焼け止めクリーム(・リップクリーム)が必要です.そして寒い.成田空港まで着てきたものをすべて持って行くべきです.この日だけは,私も半ズボンを着用しません.
  マウナケア山頂(4200m)に向かいます.山頂までの道は,一部未舗装がありますが,快適です.私はいつもはふつうのセダンで登ります(ただしこれはレンタカー契約違反).ほんとは四輪駆動でなくても大丈夫なのです.4200mの空気は薄い.海岸にあるヒロの空気の60%しかありません.酸素が足りないので,誰もがみんな,おばかさんになります.物忘れが激しくなります.カメラやリュックサックを置き忘れる人が続出するでしょう.周りの人が気づいて注意してくれなかったら,あきらめてください(団体行動なので,忘れ物を取りに戻ることはしません).不安な人は,海外旅行傷害保険の特約で携行品被害をつけてください.
 物忘れだけでなく,心肺機能に異常が生じる場合があります.いわゆる高山病です.山頂でミニバスを降りたら,ゆっくりと歩いてください.けっして走ってはなりません.異常が生じた方のために,携帯用酸素ボンベを用意します.酸素を吸入しても不調が継続する場合は,ミニバスで,ただちにハレポハク(2800m)まで下りていただきます.高山病の特効薬は,低地に下りることです.
 13時から14時まで「すばる望遠鏡」を見学します.下山時にハレポハクまでの間で,氷河削痕を表面にもつ溶岩を道路脇で観察します.
 17時ころ,ホテルに戻るつもりです.

▼3月18日(土)
 ヒロからキラウエアカルデラへ大型バスで向かいます.カルデラを一周したあと,ボルケーノ・ハウスで昼食をとります.おみやげを買うチャンスです.
 午後は,デバステーション・トレイル(0.8km)を散策したりサーストン溶岩トンネル内部を見学します.この日は,ゆったりです.

▼3月19日(日)
 帰る日です.ヒロ空港を9時の飛行機でホノルルに向かいます.左の窓際に座ると,晴れていれば,マウナケアの上にヒトデのようにのしかかったモレーンを見ることができます.
 あとは機内で楽しくお過ごしください.

▼チェックリスト
・かならず必要
 雨合羽・帽子・サングラス・日焼け止めクリーム・軍手・小さなリュックサック

・趣味に応じて
 双眼鏡・カメラ・ビデオカメラ・高度計つき腕時計・懐中電灯 ・リップクリーム