堆積物から噴火をよみとる Reconstructing Past Eruptions from the Deposits

火山地域の堆積物断面に観察できるレスは，その地点に堆積物を残すような火山噴火がその堆積期間に一回もなかったことを証明している．大きな噴火が起こって軽石や火山灰が地表を厚く覆うと，その地域に堆積した軽石や火山灰がすべて浸食されてしまう前に一部の地表面が植生に覆われて安定化する．いったん堆積の場になると再びレスが継続して堆積するようになるから，レスの間に噴火堆積物が挟み込まれて一回の大噴火の証拠が地層としてそこに記録される． 　1万5000年前の八戸噴火でつくられた平坦な火砕流台地(L)の上に堆積したレスの間に，そのあと十和田湖から起こった何回もの爆発的噴火の証拠が残されている． 　はじめは小さな爆発が頻繁に繰り返されたためテフラとレスの細かい互層が堆積したが，9500年前の南部軽石(E)以降は大きな噴火が数千年の時間間隔をおいて起こるようになったため，それぞれ特徴をもつテフラがレスの間に残された． 　C（中掫ちゅうせり軽石）は6300年前，Bは1900年前，Aは平安時代915年の噴火の堆積物である．EとCの中間にあるD軽石はこの地点に堆積していないので，その噴火の存在はこの地点のレス断面だけからでは知ることができない．十和田湖の東南東19km． （青森県田子町杉沢） 　三宅島の1983年噴火は10月3日15時15分から始まり翌朝には終わった．この噴火で残されたテフラを限られた観察記録と照合することによって，その推移を分単位で復原することができる． 　発泡の悪いスコリア礫からなる2Pは，16時38分に新澪池から立ち上がった真っ黒な噴煙柱からの降下物．スコリア暦とあずき色火山シルトからなる3PQは，18時34分にその火口が南へ拡大して岩塊を激しく吹き飛ばし始めたときの降下物．青黒色火山砂からなる4Sは，21時40分から本格化した新鼻（にっぱな）タフリング形成に伴って降下した火山灰．黒色火山砂に表面を覆われたスコリア礫からなる5Rは，22時33分に起こったM6.2の地震をきっかけとして再開した新鼻に立ち上がった火柱からの降下物である． （三宅島坪田高校） 有珠山は1977年8月7日，突然プリニー式噴火柱を立ち上げた．噴火は1978年10月まで断続し，山頂火口原内には何枚ものテフラが厚く残された．写真にみえる整然とした縞模様はすべて1978年噴火の堆積物である． （有珠山の山頂火口原；The 1978 tephra section in the summit crater of Usu） 　 真っ黒なクロボクの上にあずき色の降下火山灰(FA，28cm)があり，高速で走った熱雲の堆積物(FAig)に直接覆われている．その上に厚さ12cmのレス(L)がある．最上部3cmは黒味がつよくクロボクと呼ぶにふさわしい．厚さ300cmのプリニー式軽石(FP)がその上を覆う． 　FA噴火とFP噴火の時間差は，古墳時代の土器編年から20-30年であろうと推定されている．つまり，この写真には二回の噴火の堆積物が写っている． （渋川市明保野；Pyroclastic deposits from two eruptive episodes of Haruna about 1400 years ago）