堆積物から噴火をよみとる
Reconstructing Past Eruptions from the Deposits
 
 ロームとクロボクは,風塵が毎年わずかずつ堆積して生じた地層すなわちレスである.だから,その層厚を使って過去に存在した時間の長さを測ることができる.現在から時間を遡って測るジオクロノロジーでは古い過去になればなるほど計測誤差が増大する.10万年前に100年の時間差をもって発生した二つの事件を区別することは困難である.しかしレスを使ったクロノメトリーでは,対象の古さによらず,100年の時間差を検出することができる.日本各地のレスの堆積速度は 1-100cm/千年の間にある.
 1986年11月21日の準プリニー式噴煙柱から降下したスコリア.厚さ23cm.この上に風塵がいったん堆積しても,次の突風で吹き払われてしまう.
(伊豆大島フノウの滝上)
 一方,森の中では落ち葉や下草に守られてレスが堆積する.1992年12月27日撮影.
(伊豆大島フノウの滝上)
 伊豆大島N3.0テフラの中にある流紋岩シルト(白色)は,伊豆大島の南南西60kmの神津島で838年7月29日に始まった噴火によって降下した火山灰である.流紋岩シルトとN3.0テフラの境界にレスはない.両火山島はそのとき同時に火を噴いた.
(伊豆大島元町; rhyolite ash from Kozushima, 838AD)
 日本におけるレスの堆積速度(早川,1995b)
 いったん堆積したレスがのちに大きく削られて失われることもある.テフラが縞模様をつくっていると不整合はみつけやすいが,厚いローム層の中にも色調や質感の違いによって不整合が認められるときがある.二枚の噴火堆積物の間に挟まれるレスの厚さを測るときは,よい場所を選ばないといけない.
(群馬県子持村高山)
 約40万年かけて堆積したレスが高さ25mのこの崖に現れている.何枚か挟まれている薄いテフラから年代を知ることができる.
(黒磯市桶沢)
【レスクロノメトリーを実行するときのヒント】
1. 平坦かつ水平な面の上に堆積したレスを用いるべきである.
2. 広域テフラが肉眼で確認できる地層断面は望ましい.
3. その地域の火山から噴出したテフラの下面だけでなく上面もよく保存されている場所が望ましい.
4. 上下を年代既知のテフラで挟んで内挿することが望ましい.
5. 1m以上の外挿は,不整合を含んでしまう危険が大きいから,なるべくしないほうがよい.
6. 同じ層序関係が見られることを複数の露頭断面で確認すべきである.
7. 砂層が挟まれていたり礫が混入しているときは慎重になるべきである.レスでなく火砕流堆積物や洪水ロームである可能性がある.
8. 火口から5km以内では,小規模水蒸気爆発の堆積物とロームの見分けに細心の注意を払うべきである.
9. 火山から50km以上離れると堆積速度はやや遅くなる.
10. 100年より短い時間を測るときは堆積速度が速くなりやすい.