ラハールの堆積物
Lahar Deposits
 
 火砕流や岩なだれは,それが大規模であればあるほど,噴火後長期に渡ってラハールの発生源になりやすい.噴火直後の火砕流堆積物や熱雲堆積物の表面に降り注ぐ降雨は,たちまち蒸発してしまうからラハールのきっかけになることはない.しばらくして表面が冷えて地表に水が停滞しはじめると頻繁にラハールが発生する.はじめは高温ラハールが発生するが,給源の高温堆積物が完全に冷え切ったあとも冷温ラハールの発生が続く.給源堆積物の表面が樹木に覆われると保水力が上がってラハールの発生頻度は減る.日本のような湿潤温帯気候では,それまでに約100年の時間がかかる.
 十和田湖カルデラから1万5000年前に流れ出した八戸火砕流堆積物の上にラハールの堆積物が直接重なっている.堆積物はよく成層し,一枚一枚は薄い.ラハールは長期間に渡って何回も発生したらしい.
(左:秋田県大湯町腰廻,右:秋田県大湯町大河原)
 マグニチュード5.0以上の火砕流堆積物の表面はふつうラハールの堆積物に覆われている.つくられたばかりの火砕流台地がまず布状洪水(sheetflood)に覆われるからである.その結果,大規模火砕流堆積物の最上層を手つかずのまま観察できる露頭はごくまれにしか存在しない.これは野外火山学にとってたいへん不幸である.
(青森県三戸町屋敷平)
 十和田湖から915年に噴出した毛馬内火砕流堆積物とそれを直接覆うラハール堆積物.ラハール堆積物は岩片礫が互いに接していて,その間を泥のマトリクスが埋めている.円礫(赤矢印)も含まれている.火砕流堆積物は軽石礫と岩片礫からなるが,それらは互いに離れている.マトリクスは火山ガラス主体のシルトからなる.
(左:露頭全景,中:ラハール堆積物,右:毛馬内火砕流堆積物;秋田県大湯町)
 
 1万5900年前に浅間山から噴出した平原火砕流の堆積物もラハールの堆積物に覆われている.両者の境界には厚さ4cmのレスが認められるので,その時間差は400年程度あったとみられる.
(小諸市平原)