ラハールの堆積物
Lahar Deposits
 火山体の表面に大量の水が滞留すると,土石を交えた水の流れが発生する.土石が占める割合の大きいものから順に,土石流・泥流・洪水とよんでこれを区別する.これらを総称してラハール (lahar;インドネシア語) という.ラハールには,高温ラハール (hot lahar) と低温ラハール (cold lahar) がある.後者は,噴火と無関係にも発生する.

 アイスランドでは,火山の熱が氷河をとかして大洪水をしばしば発生させる.これはヨークルフロイプ(jokulhlaup)と呼ばれている.
 
 北部カスケード山脈の火山(ベーカー・レーニア・セントヘレンズなど)は,山頂に氷河をのせているからラハールを発生させやすい.

 降雨や小噴火をきっかけとして氷河が融けて発生する小規模なラハールの場合は,事前にその発生を予測して適切な防災対策を施すことができる.しかし山体崩壊による岩なだれから転化する大規模なラハールの場合は,発生頻度こそ低いが,発生時刻を予測しにくいので対応策がたいへんむずかしい.

 1990年から始まった雲仙火山の噴火中,しばしばラハールが発生した.ラハールが流れた水無川流域は,過去にこのようなラハールがもっと大規模に流れた結果としてつくられた扇状地である.

 ピナツボ火山の四周に堆積した1991年6月15日の火砕流(M5.8)は,雨期になると大規模なラハールを発生させて下流に被害をもたらす.この心配は,噴火後すくなくとも数十年は続く.

 ラハールの性質は,火山噴火よりむしろ地域の属性(地形・気象・土壌・植生など)に支配されやすい.したがって,地域ごとにその特徴をつかむ努力をするのが合理的である.
 氷河に覆われた火山はラハールを発生させやすい.
(Baker, Washington)
 1980年5月18日朝,セントヘレンズ火山で発生した岩なだれはスピリット湖を経てトートル川に流れ込み,ラハールとなってその日のうちに太平洋に達した.
(Lahar, S flank of Mount St. Helens, Washington)
 フィリピンのピナツボ火山では,1991年6月15日に発生した大規模火砕流のあと,降雨のたびにその堆積物から泥流が発生した.

  流れ山をもつ岩なだれ堆積面や堤防・末端崖をもつ火砕流堆積面とくらべると,大規模な泥流の堆積面はきわめて平坦である.初期に流れた泥流の堆積面が,後続のより小さい泥流に削られて段丘化している.
(Pinatubo, Philippines, March 1993)
 雲仙岳では,1991年5月に溶岩ドームが出現したあと,雨が降るたびに土石流が発生した.

 6月30日に発生した土石流は水無川の流路をそれて直進し,住宅密集地を厚さ3-4mで埋めた.火砕流の危険を避けるためすべての住がは避難していたので,この土石流による死傷者はなかった.

 表面に巨礫が多くみえる.土石流の内部では,ぶつかりあう粒子間にバグノルドの力(Bagnold force)と呼ばれる反発力が働いて,大きい粒子ほど上部に濃集しやすい性質があるからである.
(島原市安徳)