山体崩壊による岩なだれの堆積物
Edifice Collapses and Debris Avalanches
 
 岩なだれ堆積物の断面をみると,色や粒子構成が異なるいくつかの領域を認識することができる.これをパッチワークという.ひとつ一つのパッチは元の山体の部分をつくっていた地層からなる.ときには降下軽石堆積物のような強度がほとんどゼロに等しいパッチもみつかる.岩なだれの内部に強い応力が働かないことのあかしである.

 岩なだれ内部には相対速度がほとんど発生せず栓流(plug flow)として流れ下る.ガスの発生源がなく高温でもないから,上昇ガス流が発生して流動化現象が実現することはない.こうして,岩なだれの中では大きな降伏強度が保証されて巨大岩塊が遠くまで運ばれる.
 2万4300年前に黒斑山が東へ大崩壊して発生した塚原岩なだれの断面.オレンジ・紫・黒などのパッチが明瞭である.多くのパッチは引き伸ばされている.
(長野県軽井沢町杉瓜;Tsukahara debris avalanche of Asama )
 岩なだれは高速で流れるから,地表面近くの境界層でつよい剪断力が発生する.その結果,地表付近の植物や土壌が岩なだれに取り込まれ,岩なだれ中のブロックが磨耗してつくられて細粉と混じり合って,パッチとパッチの間を埋めるマトリクスになる.
(佐久市塚原; Tsukahara debris avalanche of Asama)
 八ヶ岳東麓でみられる岩なだれ堆積物にもパッチとマトリクスが認められる.
(長野県南牧村海ノ口)
 1万5900年前の嬬恋軽石の上に,レスを挟んで鎌原岩なだれ堆積物がのる.断面にパッチワークが認められる.ひとつ一つのパッチは引き伸ばされ,右から左へ向かった流れと反対方向に傾斜する覆瓦(ふくが)構造(imbrication)を示している.

 浅間火山の鎌原岩なだれは,山頂火口から北へ前日あふれ出た鬼押出し溶岩の先端を含む山体の一画が(おそらく地震によって)1783年8月5日10時ころ崩落して生じた.同時に熱雲も発生した.この岩なだれによって,鎌原村をはじめとして吾妻川流域の村々で1400人余の命が奪われた.
(群馬県嬬恋村鎌原)


 伊豆大島のいたるところで見られるS2.0凝灰角礫岩は,1450年前の山体崩壊で発生した岩なだれの堆積物である.三原山をとりまく「カルデラ」はこのときにできた.

 不明瞭ながらパッチが認識できる.直径30cmほどの樹幹(矢印)がいくつか見える.どれもほとんど炭化していないことからこの流れは低温だったことがわかる.
(伊豆大島の火山博物館駐車場)