噴煙から降下するテフラ
Tephra Fallout from Eruption Clouds
 
Sparks (1986)による噴煙柱モデル
 熱源から短時間だけ熱が放出されると,そこから空気のかたまりが上昇する.これをサーマルとよぶ.夏の空にみられる入道雲はサーマルの典型である.火山噴火でも,熱の供給が短時間で終了するとサーマルが発生する.

 火山噴火によって生じるサーマルには次の二種類がある.1)火道内で短い爆発が一回起こり,高温物質と高温ガスの混合物が火口から噴き出してブルカノ式サーマルが上昇する.2)高温のマグマが火砕流として地表に流れ出し,それを熱源として火砕流サーマルが上昇する.

 爆発が長時間継続すると,熱を連続的に上へ運ぶプリュームが生じる.線香から立ちのぼる煙と同じである.
 火山爆発で生じるプリュームは噴煙柱とよばれる.噴煙柱は,下からガス推進域,対流域,かさ形域の三つに分けて考えることができる.

 基部のガス推進域では圧力が急激に開放されるから,マグマに溶け込んでいたガスが気化膨張し,その推進力のために強い上昇流が生じる.しかしそれは重力によってすみやかに減速されてしまう.最大級の噴火でも,ガス推進域は噴煙柱の基部2〜3km部分を占めるにすぎない.ガス推進域の上には浮力が支配する対流域がある.周囲から取り込まれた空気が噴煙柱内部のマグマの破片がもつ熱で暖められて膨張し,噴煙全体の密度が減少するために,噴煙は浮力を獲得して上昇が継続する.噴煙柱の密度と大気密度が等しくなった高さが対流域の上限である.ところがその高さでの噴煙上昇速度はゼロではないので,噴煙は慣性力でもうしばらく上昇する.水平方向への広がりが著しいのでこの部分をかさ形域という.このかさ形域の存在が降下テフラの分布に大きな影響を与える.
 
テフラを降らせる噴火様式の分散度-粉砕度による分類(Walker, 1980; Cas and Wright, 1987)
 
テフラ粒子の粒径分類
 
十和田火山中掫軽石の等層厚線図
 
 プリュームをつくる火山噴火のうち,マグマの発泡によって維持される噴火は,そのプリュームの高さに応じて,プリニー式・ストロンボリ式・ハワイ式などとよばれる.外部の水の気化もプリューム維持に貢献した場合は,水蒸気プリニー式あるいはスルツェイ式とよばれる.

 火山爆発によって生産される粒子はテフラと総称される.テフラ粒子は大きさだけによって,火山岩塊(64mm以上)・火山礫(64-2mm)・火山灰(2mm以下)の三つに分けられる.火山灰はさらに1/16mm(62.5μm)と1/256mm(4μm)で細分されて,火山砂・火山シルト・火山粘土に分けられる.

 サーマルやプリュームは,ガスの中に大小さまざまのテフラ粒子が混濁したものである.テフラ粒子はすみやかにそこから離脱して地表に落下する.その終端落下速度は,火山岩塊がもっとも大きく,火山粘土がもっとも小さい.したがって,粒子の滞空時間は火山岩塊がもっとも短く,火山粘土がもっとも長い.その時間内にテフラ粒子は横風によって側方に移動するから,火口から数kmまでは火山岩塊が,数十kmまでは火山礫が,100-200kmまでは火山砂が,それ以遠は火山シルトが主として降下する.

等層厚線Tが囲む面積Aと噴出量Vには

 V = 12.2TA             (1)

という関係がある(Hayakawa, 1985).したがって,等層厚線図を描くことによってそのテフラの噴出量を求めることができる.

 X軸にA,Y軸にTをとると,(1)式は双曲線で表現される.AとTの積はいつでも一定であるから,たくさんの層厚測定点によってもっともよくコントロールされた等厚線を選んでV を計算するとよい結果が得られる.

 噴出したマグマの重量をm (kg) としたときに,

  M = logm - 7             (2)

で得られる量を噴火マグニチュードMとよぶ.

 降下テフラの体積VからMを計算するには,堆積物の密度が必要である.降下テフラの密度は500-1000kg/m3程度である.