フィールドガイド     

氷河が海に達するとその先端から氷山が生まれる(シアトルからアンカレッジへ向かう定期航空路から)


アラスカ

AnchorageとFairbanksを結ぶハイウエイ3号線はWindyでDenali断層を横切る.正面の山肌が断層崖
アラスカ州最大の都市は,人口23万のアンカレッジAnchorageである.極東と北米・ヨーロッパを結ぶ航空機の中継基地として栄えたが,両地域間でダイレクトフライトができるようになったいまはその重要性がやや薄れている.現在は,観光に力を入れて人を呼び込もうとしているようだ.

アラスカ州第二の都市は,内陸にある人口3万のフェアバンクスFairbanksである.金鉱・北極海の油田・アラスカ大学が主要産業.アラスカ大学では,オーロラや火山などの地球科学の研究が盛んだ.内陸にあるが海抜高度が100mしかないため,冬は-30度まで冷え込むが,夏の日中は20度を超える.海岸近くにあるAnchorageよりずっと暑く晴天率が高い.北緯65度に位置するから,夏至のころの日照時間は22時間を超え,一日中真っ暗になることがない.

Wander Lake キャンプ場からみたMt. Denali.
デナリDenali国立公園

AnchorageとFairbanksの間に北米大陸でもっとも高いMt. Denali(あるいは,Mt. McKinley;6194 m)がある.この山の北側を東西に走るDenali断層は,北米プレート内の第一級逆断層である.この断層は,南から沈み込む太平洋プレートによって生じた付加体と本来の大陸地殻との境界である.

Denali国立公園内のWoder Lake (標高600 m)からみる Mt. Denali は,目の前のMcKinley川からいきなり高さ5000 mもの巨大な壁としてそびえ立っている.

ツンドラ (Denali N.P.)
タイガの上にツンドラ,そして裸地が重なる(アンカレッジ近郊)


Spruceが生える森をtaigaという.先のとがった緑の木が生えているところという意味のロシア語だ.Denali国立公園ふきんでは,標高1000 mでtaigaの森は終わり,その上に矮小な樹木や高山植物しか生えないtundraが広がる.公園内を走るシャトルバスを利用すると,車中に座ったままでtaigaからtundraへの変容をみることができる.

永久凍土 (Denali N.P.)
Fairbanksふきんの湿地の地下には永久凍土がある.アスファルト舗装された道路が数年で波うってしまい,保守がたいへんらしい.

永久凍土の上には,トウヒの一種であるblack spruce が生えている.black spruce は樹高が10 mくらいまでしかならない小さな針葉樹である.だから,永久凍土の上の浅い土壌の中でも根を張ることができる.しかし,しばしば根が樹幹を支えきれなくなって傾いてしまう.Black spruceより大きいwhite spruceは,樹高20 mまで達する.河川や湖の縁の永久凍土のないところに生える.

二段のビーバーダム(Horseshoe Lake, Denali NP)
Yukon川の支流であるTanana川の段丘の上にはレスが20 mも堆積している.その堆積年代は第四紀全体に及ぶと信じられている.6月にストームが発生しやすく,そのときにTanana川の河川敷表面にあった氷河岩粉が空を舞う.

Fairbanksふきんの金鉱は,Tanana川から水を引いてそれを永久凍土やレスに放水して,それらの下からあらわれる第三紀の河川礫層(未固結)の中に含まれる金(gold nuggets)を水ひして採取している.

ビーバーダム:人間を除けば,自然環境をもっとも著しく改変してしまう動物はビーバーである.水際に生えている木は彼らにとって必要不可欠である.木の近くまで安全に水中をもぐっていけるように,ビーバーはダム湖をつくる.Beaver lodgeとよばれる家までつくる.

Dryas Octopetala(Wonder Lake, Denali NP)
前回の氷期が終わりに近づいて地球全体が温暖化しているとき,突然ヨーロッパアルプスにふたたび寒い時代が訪れた.その地層中にはDryas Octopetala(和名はチョウノスケソウ)の花粉が多量に含まれるので,この時代をYounger Dryasという.Younger Dryasは紀元前9690年ころに終了して,そのあとは現在の暖かい時代である完新世となった.Denali国立公園では,この Dryas Octopetalaを多数見ることができる.

キナイフィヨルドKenai Fjords国立公園

Harding Icefield Trailからのながめ
Harding icefield :どこにも高い山は存在しないのに,標高1200 mの平坦地から氷河が四方八方に流れ下っている.このような雪原をicefieldという.Harding icefieldをみるためには約3時間の山登りが必要だが,そこから流れ下る氷河であるExit glacierは,駐車場からわずか5分歩くだけで間近に見ることができる.

Icefieldの中にある孤立した峰はヌナタクnunatakuとよばれる.そこでは地表の凍結融解による周氷河現象が顕著に起こっている.

氷河は流れている氷のかたまりである.年間を通して雪が蓄積されるところに氷河はできる.それは,冬に降る雪の量が夏に融ける量を上回るところである.雪が厚く積み重なると,下部の雪は圧密をうけ結晶化して氷となる.上層の雪と氷の荷重は下層の氷を変形させる.このことによって氷河は下方に流れる.

氷河が運動することによって岩盤には削痕striationが残される.岩盤から削りとられた岩粉rock flourはモレーンmorainを構成する主要粒子だが,大部分は氷が溶けて生じる水流によって下流へ運ばれる.岩粉を含んだ水は濁っていて氷河ミルクglacier milkとよばれる.

Exit glacierの先端から流れ出る網状河川
氷河が削った広いU字谷U-shape valleyを流れる川の流量はその谷幅にくらべてずっと小さい.そのような広い谷を流れる川は網状流 braided riverの形態をとる.広い河川敷の表面に堆積した岩粉は,初夏にしばしば起こるストームによって空中に舞い,近隣の植生の上に降下する.こうして無層理塊状の堆積物レスloessが生じる.

雪線snowlineとは,降雪の蓄積域と消費域の境界線のことである.晩夏には,その位置がひと目でわかる.蓄積域は,その年に降った新雪が融けずに白いままだが,消費域の新雪は融けて氷河の表面のモレーンやクレバスが露出している.

クレバスcrevassは,流れが速くてつよい張力が働くところにできる.つまり,急斜面を流れる氷河の表面にできる.クレバスの割れの深さはだいたい45mくらいまでで,それより深いところは,張力よりも圧力の方が勝るので,割れ目は閉じる.

Exit glacierの先端
画面左の比高5mの高まりは1995年にExit glacierから離れたばかりのモレーン.


氷河の先端はつねに前進しているかあるいは後退している.先端において流れる速度より融ける速度の方が速いとき,その氷河は後退しているといわれる.

19世紀半ば以降,全世界の谷氷河はいちじるしい後退を続けている.Exit glacierは最近50年で500 mくらい退いたから,その後退速度はおよそ10 m/年と計算できる.

アイスワーム.氷の中に住む虫.
Harding Icefield TrailからみたExcit glacier.1825, 1909, 1924, 1950, 1995年のエンドモレーンが認められる.古いモレーンの年代は樹木年輪で決められた.

Portage
アラスカ地震:1964年3月27日の地震はGood Friday Earthquakeとよばれ,プレート沈み込み境界で起こった巨大地震のひとつとしてよく知られている.ここにはPortageという村があったが,地震によって地盤が2.4m沈降して海水が入り込んだため,再建されずにそのまま放置されている.海水の侵入によって枯死した樹木がみえる.


アラスカ大学のBeget教授のログハウスにて.ベランダでくつろいでいるところ.(夫人のKeskinen教授撮影)

Fairbanks市内を流れるChena川をこれからカヌーで下るところ.坊やは4歳のZachary君.フライフィッシングも初体験.Arctic Graylingを3匹釣った.(Keskinen教授撮影)

キャンプ風景.レンタカーはアンカレッジで借りたFord Contour.二週間で300ドル.クルーズコントロール付き.

1997年6月


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