北海道駒ヶ岳

定期火山情報第1号
平成11年 5月21日10時
札幌管区気象台・森測候所発表
火山名 北海道駒ヶ岳

 本年第1回目の火山現地観測を5月11日、12日に実施しました。その結果と最近
の火山活動についてお知らせします。

1.概況
 北海道駒ヶ岳は平成10年10月25日09時12分頃、平成8年3月5日以来2年
7ヶ月ぶりに噴火しました。噴煙は一時1,200mの高さまで達し、降灰は火口の東側
約9km離れた山麓の鹿部町まで到達しました。
 山頂火口原には人頭大の噴石が多数散乱し、中には直径1m以上の岩塊も見られる他、
火山灰が最大約70cmの厚さに堆積しています。
 また、昭和4年火口内に新たな火口(98年火口)が形成されているのを確認しまし
た。当初、噴火地点は平成8年と同じく昭和4年火口内の96年主火口と見られていま
したが、噴出物の分布状況等から昨年の噴火は、96年主火口および新火口から発生し
たと推定されます。
 火山性地震は噴火当日に7回観測しましたが、その後は減少し月数回の通常レベルで
推移しています。火山性微動は噴火に伴い約6分間観測したほか、本年3月1日にも規
模の小さな微動が約1分間観測されましたが、表面現象の異常は見られませんでした。
 今回の火山活動は短期的には低下の傾向にありますが、3月1日には火山性微動が発
生するなど地下での活動は依然続いており、火山活動は消長を繰り返すこともあるので
今後も火山活動の推移に注意する必要があります。

2.遠望観測
 森測候所からの遠望観測および鹿部町役場に臨時に設置した遠望観測装置による観測
では、噴火直後の噴煙の高さは1,200mに達するなど、噴煙活動が一時的に活発な状
態になりましたが、翌日以降活動は急速に弱まり、概ね100〜200mの通常レベル
で推移しています。なお、1,000m以上の噴煙を観測したのは平成8年3月の噴火時
以来です。

3.震動観測
 山頂火口の西南西約4.1kmに設置してある地震計(A点)で観測された昨年5月から本
年5月17日までの火山性地震および火山性微動の月別回数を第1表に、1996年以
降の日別地震回数グラフを第2図に示します。噴火に伴う火山性微動は10月25日0
9時12分から約6分間観測しました。火山性地震は噴火当日に7回発生しましたが、
噴火前に顕著な地震活動の変化は見られず、その後は月数回で推移し、噴火前と同様少
ない状態が続いています。
 また、本年3月1日08時23分から約1分間火山性微動が観測されましたが、地震
活動の変化や表面現象に異常は見られませんでした。

    第1表 月別火山性地震・火山性微動回数(1998年5月〜1999年5月17日)
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  年  1998                    1999
  月   5  6  7  8  9  10  11  12  1  2  3  4  5
 地 震  2  1  0  2  1  10  11   4  1  2  3  3  0
 微 動  0  0  0  0  0   1   0   0  0  0  1  0  0
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4.現地観測
(1)昭和4年火口
  昨年の噴火により、昭和4年火口南端の壁面底部に口径約15〜20mの新火口
 (98年火口)が形成されました。火口は崩落した岩石で埋もれ岩の隙間から強い
 噴出力で噴煙を上げています。噴煙は白色で高さは100mでした。火口北側約1
 30m地点からの赤外放射温度計※による観測では、噴気温度は50℃でした。噴
 煙には有毒な火山ガスが含まれており、強い刺激臭が認められます。
  96年主火口のうち南西側は噴火により深い窪みになり、以前あった湯溜まりや
 噴気はなくなりました。  
  一方、最も活発な噴煙活動を行っていた北東側の火口は、噴気音も小さくなるな
 ど活動は噴火前に比べかなり弱くなっています。第4図に示すように赤外放射温度
 計※による観測でも、噴気温度は25℃で前回(74℃)から大きく下降しました。
  また、昭和4年火口底は数メートルの噴出物が堆積し、以前あった噴気孔や変色
 域は埋没しました。
(2)96年南火口列
  各噴気孔の噴気の量や高さおよび昇  華物の付着等は、噴火前と比べ大きな変
 化は認められません。火口列の噴気温度の最高値は92℃で前回(94℃)と変化あ 
 りません。
  火口列東側地熱域の地中温度は最高値42℃で前回(45℃)と比べ変化はなく、
 地熱域の広がりについても大きな変化は見られません。また、地中温度の連続観測
 結果では気象条件の影響と思われる変動以外に、噴火の前後において対応する変化
 は見られません。3月1日に発生した火山性微動の前後においても変化は見られま
 せん。
(3)明治火口
  北西壁中部の噴気孔は、やや活発な噴気が続いており、噴気の状況は前回から大
 きな変化はありません。
(4)他の火口や噴気地帯
   昨年5月に確認した繭形火口付近の噴気孔は、弱い噴気活動を続けています。噴
  気孔の大きさは長径約3mで地盤の弱いところにあるため,口径の拡大が続いてい
  ます。また、繭型火口付近から昭和17年大亀裂東側の火口原にかけては、橙色か
  ら白色の昇華物による変色域が広範囲に分布しています。
   西火口原登山道沿いの亀裂部分(96年南火口列の南西約200m)から少量の
  弱い噴気を確認しました。この地点では過去にも噴気が観測されていましたが、近
 年はほとんど目立たなくなっていました。
   なお、昭和17年大亀裂南端の雨裂は、前回と比べてやや拡大して崩れやすい状
 態が続いています。
(5)噴出物の状況
   噴石は主に昭和4年火口の西北西から北東側に分布しています。昭和4年火口付
  近ではこぶし大から人頭大の噴石が数多く散乱し、中には直径1m以上の岩塊が見
  られます。また、火口の北側約500m離れた地点でも直径約1mを最大に人頭大
  の噴石が点在し、平成8年の噴火よりも噴石は遠くまで達しています。
  火山灰・礫は主に昭和4年火口の北東から東側に厚く分布しています。昭和4年
  火口縁の北東では最大約70cmの厚さに堆積し、繭型火口付近でも10cm程度の降
  灰が見られます。総噴出物量は平成8年の噴火より少なく見積もられていますが、
  詳細は調査中です。
(6)山麓周辺の泉温
 山麓の温泉などの測定値は、前回の観測結果と比べて変化は認められません。

5.注意事項
(1)各火口からの噴煙は,有毒な火山ガスが含まれており,風が弱いなど気象条件
  によっては,窪地に停滞することがあります。また,風向きによっては登山道まで
  流れることがありますので十分に注意してください。
(2)火口原は雨などによる浸食が進んでおり,昭和17年大亀裂南端および瓢形火
  口東端の雨裂につながる沢では,大雨時に土石流や泥流が起きる恐れがありますの
  で注意して下さい。

 ※:物体が放射する赤外線を感知し,熱源から離れた場所で測定した温度。この値は,
   観測条件によって変わることがあります。

火山観測情報第1号 平成11年3月1日15時10分 札幌管区気象台発表 火山名 北海道駒ヶ岳  北海道駒ヶ岳で小さな火山性微動が観測されました。  気象庁A点(昭和4年火口の西南西約4km)および北海道大学の 地震計に,1日08時23分頃から継続時間約1分間の小さな火山性 微動が観測されました。  森測候所の観測によると,噴煙などの表面現象に異常な変化は認め られていません。また,その後地震計に火山性微動は観測されていま せん。  北海道駒ヶ岳で火山性微動が観測されたのは昨年10月25日の噴 火以来のことです。今年に入って火山性地震の発生状況は月に1〜2 回と少ないレベルで推移しています。

 今後,火山活動に変化があった場合は,火山情報でお知らせします。