岩手山の解説          

早川由紀夫(群馬大学教育学部)

98.9.30.1630

9月26日に行われた第4回岩手山火山災害対策検討会のあとに配布された報道関係説明資料を入手しました.第一頁第二頁


98.9.30.0830


98.9.27.1730

東大地震研究所の山中さんのページ岩手山の下のマグマが見えた?(速報)をご覧ください.3日の地震波形を解析して,岩手山の下にマグマがあることの積極的証拠が得られたという報告です.岩手山の地下深くからマグマが上昇してきているのではないか,という状況証拠はすでにたくさんありましたが,これほど明確な証拠はなかったように思います.

山中さんがこのページをつくったことを私は地震の翌日に知ったのですが,非公開ページだと勘違いしていたので,ここに紹介するのが今日になりました.


98.9.26.1600

「火山性地震」のその後 盛岡地方気象台発表の火山観測情報を並べてみると,興味深いことがわかります.

62号までは「地震回数  内,火山性地震   火山性微動」という表現だったのですが,63号から「火山性地震回数   内,余震  火山性微動」と変わっています.これを解釈すると,気象庁は,62号までは「岩手山の地震」=「火山性地震」+「3日の地震の余震」という用語法を採用していたが,63号から「岩手山の地震」=「火山性地震」(余震はこの部分集合)という用語法に改めたようにみえます.新しい用語法にしたがえば,3日の地震も火山性地震だったということになりましょう.

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火山観測情報64(9.25)
【震動観測】
東北大学の松川観測点で観測された日別の火山性地震・火山性微動発生状況
月  日        火山性地震      火山性微動
9 18             9回           1回
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火山観測情報63(9.18)
【震動観測】
東北大学の松川観測点で観測された日別の火山性地震・低周波地震・火山性微動発生  
状況
月  日        火山性地震回数    内,余震     火山性微動
9 11             41回           20回           0回
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火山観測情報62(9.11)
【震動観測】
東北大学松川観測点で観測された日別の火山性地震・低周波地震・火山性微動発生状  
況
 
  月  日      地震回数     内,火山性地震          火山性微動
  9  9        40回       10回            0
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火山観測情報61(9.9)
【震動観測】
東北大学松川観測点で観測された日別の火山性地震・低周波地震・火山性微動発生状  
況
(本日の13時現在)  
  月  日      地震回数    内,火山性地震    火山性微動
  9  3      555       ──              1
     4      383       26(6〜24時)      1
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98.9.23.1430

岩手高原スキー場が今冬の営業中止を決めたというニュースが18日に新聞報道されました.昨冬は21万人を集めたスキー場だそうです.冬場の臨時職員170人を募集する前に今冬の営業中止を決断したとのことです.

この営業中止決定が他のスキー場と周辺の宿泊施設へ及ぼす悪影響が心配されます.どうしたって客足が遠のくでしょう.

まだ噴火していないのに今冬の営業中止を決めたのは,いさぎよいともいえますが,私はこのニュースに接して,正直,意外に思いました.他人の経済活動にあれこれ口を挟むことはできませんが,ほとんど観光で生活している地域社会を思うと,今回の中止決定は拙速だったのではないかと疑います.会社は情報収集と分析を十分にしたのだろうか?

私の考えでは,岩手山の噴火によって今冬,岩手高原スキー場が営業中止せざるを得ない事態に追い込まれる確率は50%程度だと思います.確率五割なら,まだ営業するつもりで抜かりなく準備するのが妥当ではないか.それくらいのリスクは経済活動にふつう伴うのではないか.噴火したら営業中止する,という対応で十分だったのではないか.

いまは,岩手山の名前が全国区で報道されているまたとないチャンスでもあるのですから,それをみすみす逃すのはもったいないではないか.


98.9.15.1030

スミソニアン博物館で毎月出しているBulletin of the Global Volcanism Networkの7月号に,土井さんによる岩手山の噴火史が詳しく紹介されています.英文で岩手山がどのように紹介されているかを知っておくのは有益です.以下の文に注目です(太字は引用者).

During a large collapse ~6,000 years ago, a mass of debris rushed
NE but subsequent topographic constraints redirected debris SSE.
The debris followed the Kitakami River reaching the present site
of Morioka City (population 235,000).


98.9.13.1650

3日の地震で岩手山が「よく崩れなかったものだ.不幸中の幸い」だったと,私は4日に書きました.この発震の規模はM6.1でした.火山地域で起こる発震としてはかなり大きなものだったと言えます.あの場所でのこの規模の発震は,数千年ぶりに起こったのではないかと(私は地震学者ではないけど)想像します.もしこの想像が正しければ,岩手山で過去数千年間に起こった(噴火)災害はすべて,その再来をいま心配されてよいと言えると思いますが,みなさんはどう感じますか?

>「以上のように岩手火山群形成史において,山体崩壊と岩屑なだれ堆積物の形成は,300
>〜270ka以降7回起こった普遍的な現象であり,火山体構造を決定づけた重要なイベント
>である.したがって岩屑なだれ堆積物の編年と山体崩壊の噴火様式の解明は今後の重要
>な課題と考える.また大規模な山体崩壊が約6.0kaに起き,小規模な山体崩壊については
>平安時代以降にも起きていることは,盛岡市など岩手山麓に位置する市町村の防災を考
>える上で重要である.」土井宣夫(1991)岩手火山山麓の岩屑なだれ堆積物群.火山,
>36,483-484.

kaは1000年前を意味する(地質学特有の)単位です.


98.9.8.0910

岩手県の「地震関連情報」のページには,知事記者会見や記者発表の内容が詳しく紹介されています.記者発表は,すでにインターネットを介して行う時代になっていますが,記者会見のやりとりを忠実に再現している岩手県のページはさらにその先を行っています.県災害対策本部がいったん廃止されたようですが,インターネットへの情報掲載を今後も続けてください.


98.9.7.0830/9.8.1140

科学技術庁のページ「1998年9月3日の岩手県内陸北部の地震について」からたくさんの図がリンクされています.ただし,どの図も容量がたいへん大きいので読み込みに時間がかかります.

3日の地震で地表に現れた断層変位の写真とその説明,現場へのアクセス,それから(たいへん有益な)余談を,秋田大学の林さんが公開しています.

火山活動という語は何を指しているかあいまいですから,なるべく使わないでほしい.「火山活動 = 噴火」と誤解している人が,どうやら専門家の中にも,ジャーナリストの中にも,住民の中にもいるようです.3日の地震が「火山性かどうか」という質問と答えのぎくしゃくは,ここに源を発するものだと私は考え至りました.「火山活動 = 噴火」と考える人にとって3日の地震は(いまとなっては)あきらかに「火山性」ではありませんが,「火山活動」をもっと広い意味にとる人にとっては,この時期にあそこで起こったM6.1地震が「火山活動」と無関係すなわち「火山性」でないなんて考えられません.

 火山活動とどうしても言いたくなったときは,地震・噴気・地殻変動・電磁気異常・爆発・噴火などの具体的地学現象からイメージしているものを選んでひとつ一つ列挙してほしい.

火山性」はマスコミ言葉ですから,ここで私がその使用の適否を議論するのは適当でないでしょう.「火山性」という言葉を自ら使う専門家はほとんどいません.いや,火山性地震という言葉が地震学の教科書に載っていました.つまり,火山学者は使わないが,どうやら地震学者は(ふつうに)使っているらしい.

  1. 「火山で起こる地震を一般に火山性地震または火山地震と呼ぶ」(宇津総編集,1987,地震の事典,朝倉書店,170ページ)
  2. 「火山の噴火,あるいは噴火していなくても内部の活動に関連して火山体の中やごく近くに起こる地震を火山性地震(volcanic earthquake)という」(宇津,1984,地震学,共立出版,156ページ)

この定義から判断すると,火山性かどうかの判定には震源の場所だけが問題であって,地震メカニズムの考察は必要ないということになります.「火山性地震」という概念は,それほど役に立つものではなさそうです.


98.9.5.0830

余震確率 一部の新聞が,余震の発生確率を20%と伝えていますが,それはきのう午前中の気象庁発表を伝えたものです.気象庁は夕方,2%に変更していますから2%が正しいです.

火山性地震? 3日の地震が「火山性」かそれとも「活断層性」かという議論がマスコミでにぎやかしく論じられています.この問題に白黒をつけることは,理学としては重要ですが,防災のためにはそれほど重要だと思えません.いま重要なのは,3日の地震が岩手山の噴火を誘発するように働いたのか,それともこれで岩手山の噴火の危険が遠のいたのか,を地元住民に知らせることだと思います.

 「火山性地震ではない」とか「岩手山の活動と直接的なつながりはない」とかの発言は,噴火による地震あるいは地下でのマグマ移動によって発生した地震ではないことを主張しています.この主張は,その限りにおいては正しいのですが,「3日の地震が岩手山の噴火を誘発するように働いた」可能性を否定しているわけではないことに注意する必要があります.


98.9.4.0830/1330/1530

ひと晩明けて,事実とその解釈を伝える報道が増えてきました.私がいま把握している情報のうち,重要と思うものは以下です.

  1. 発震メカニズムは東西圧縮の逆断層型
  2. M6.0なら,地下でずれた断層面は10km x 5km程度だろう
  3. M6.0は,火山直下からの発震として最大級いや,火山近くで発生する地震の上限はM7.0ふきんにあるらしい.だからきのうの地震が岩手山で起こる最大だとはいえない.ちなみに,御嶽山の山体内部で1984年9月に発生した長野県西部地震はM6.8.
  4. 余震域がこれまでの小地震群とはちがう場所
  5. 岩手山がきのう噴火したという情報はない
  6. M6.0は,火山噴火による発震としては大きすぎる
  7. 空震が観測されたというNHK総合テレビ報道(9.3.1735ころ)の「裏」はその後とれない(私の聞き違いだったのかしら?).なお,浅いM6.0なら空震が観測されてもおかしくない.気象庁は昨夜の記者会見で「空震は観測されていない」と説明したらしい.

私の感想は以下です.

  1. 「地震が山を崩さなかったのは理解可能です」と,きのう書きましたが,よく崩れなかったものだ.不幸中の幸い,という感をいまは強くしています.
  2. きのうの地震によって岩手山の噴火が促されたか,それとも噴火の危険が遠のいたか,どちらかわかりません.何を調べたらいいかもいまアイデアありません.静岡大学の小山さんのページ「火山と地震の連動現象について関心をもたれた方へ」が,この問題を考えるときのひとつのスタートポイントとなるでしょう.
  3. 防災を重視する立場からは,安全のためにこの二三日は警戒を強めるのがよいと言えるでしょう.ただし噴火をおそれていま避難するのは過剰警戒でしょう.山に何らかの異変が発見されてから避難する心づもりでいれば大丈夫でしょう.
  4. 正直に言って,水蒸気爆発の前にM6.0で揺すられるシナリオを私は想像できませんでした.だから一報を聞いて「やられた」(意表を突かれた)と思いました(私個人の力不足か,日本の火山学の限界・実力か?).


98.9.3.1830/9.5.0830/9.6.0830

1658に雫石で震度6弱の地震がありました.Mj 6.0, Mw 5.9だそうです.

その瞬間に空気の振動(空震)があったとNHKテレビが伝えましたが,気になります.

玄武温泉の近くの道路で25cmの隆起があり,近くに大きな石が落ちてきているそうです.先月末の大雨で地盤がゆるんでいて,地すべりが起きたのではないかと疑われます.確認のためのきちんとした現地調査が必要です.玄武温泉は山頂の南西7km,葛根田川のそばです.この現場そのものが断層変位だったようです.この文を書いたとき私は,まだ映像を見ていませんでした.

セントヘレンズ1980.5.18の地震はM5.1でした.その地震は地下の断層運動によるものではなく,山くずれそのものによって発生したものです.地震が山くずれを引き起こしたのではなく,山くずれが地震を発生させたのです.ですから,それよりずっと大きい今日の地震が山を崩さなかったのは理解可能です.しかしもっと大きなマグニチュードの発震があったらそのかぎりではありません.


1998年8月以前